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真夏の夜の夢

第6章 第五夜


「ねえ、本当に泊まれるの?」

観光地に向かうオンボロの車内で
知美はボーイフレンドの豊に何度も念を押した。

「大丈夫だって、ボンビーのSNSで
情報はバッチリ仕入れてあるからさ」

得意気に鼻の穴を膨らませて
豊はハンドルを握り、
前方を注視しながらニンマリと笑みを浮かべた。

知美も豊も地方の国立大に通う苦学生である。

ささやかな親の仕送りとバイトに精を出して
なんとか生活できているという有り様だった。

そんな二人だったので、
付き合って二年になるが
旅行というものにはほとんど縁がなかった。

お金に余裕がないので
知美は旅行をあきらめていたのだが、
ある日、豊が「温泉にでも行くか?」と
夢のような言葉で知美を誘ってきた。

「観光地までの道中には
ラブホが立ち並んでいたんだけど、
この不景気で次々と倒産してるらしいんだ。
すぐに買い手が現れて建て替えるホテルもあるけど、中には手つかずでそのまま放置されているホテルもあるそうだ」

豊はSNSでそういったホテルを探り当てて
そこに忍び込んで宿泊するつもりなのだ。

到着したラブホはネオンが消えて
出入り口に簡易な柵がしてあるだけで
外見上はまったく普通のラブホテルでした。
てっきり廃墟のような蜘蛛の巣だらけを想像していた知美はホッとした。

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