真夏の夜の夢
第7章 第六夜
長い道のりだった。
横山一輝はプロペラ飛行機のタラップ階段を
フラフラしながら目的地の大地に降り立った。
一週間前、会社より短期出向の辞令を受けた。
地方営業所に欠員が出たとかで
急遽、自分に欠員補充が埋まるまで
応援に行ってくれと言われた。
30過ぎの独身男ゆえに、
会社としても移動させやすかったのだろう。
おまけに先日には
とんでもない赤字を計上するミスをしてしまったので懲罰的な意味合いもあるのだろう。
そんな訳だから
嫌ですと辞令を突っぱねる訳にも行かず
渋々と地方営業所にやってきたのだ。
今や新幹線が縦横無尽に走り回っているこの時代に
目的地には新幹線が通っておらず
空路が一番の近道だったのだが
なにぶんにも便数が少なく、
おまけに過疎地の空港ゆえにプロペラ機しか
就航していない有り様だった。
『タクシー乗り場はどこだ?』
国際空港ならばタクシーが数珠繋ぎに待機しているのに、一台だけしか停まっていない。
乗り込もうとすると、後ろから走ってきた女に
「お先に~!」と追い抜かれて
たった一台のタクシーを横取りされてしまった。
そりゃないだろう!
憤慨してみたところで始まらない。
次のタクシーが来るまで待つしかなかった。