真夏の夜の夢
第8章 第七夜
翌朝、女将が目を覚ますと
そこには自分だけしか寝ていなかった。
「あ、もう、こんな時間!」
女将は慌てて着物を着ると
旅館の庭先の掃き掃除を始めた。
そこへ山道を軽トラックがかけのぼってきた。
運転していたのは番頭であった。
『この人はホントに働き者だねえ
私を起こさずに食材の買い出しに行ってきてくれたのね』
女将は感心して
飛びっきりの笑顔で出迎えた。
「女将さん、遅くなってすいません!」
「とんでもない、私の方こそ寝坊してしまったわ
あんたったら、夕べは激しかったからさあ」
年甲斐もなく昨夜のセックスを思い出して
女将は赤面してしまった。
「へっ?夕べ?
何の事ですか?私ゃ、たまには商売女に遊んでほしくて昨夜はここを抜け出させてもらいましたが…」
「えっ?じゃあ…昨夜の相手はあんたじゃなかったの?」
番頭以外にこの旅館には男はいない。
それを思うと、昨夜の相手が誰だったのかと
女将は体がブルブルと震えてきた。
悪巧みをしてバチが当たったのだと
ほどなくして女将は旅館を廃業した。
世の中には悪いお人がおるものでございますね
えっ?うち?
当旅館はそんな悪巧みはいたしませんよ
過剰サービスはいたしますけれどもね
えっ?それは楽しみですって?
うふふ、もうしばらくの辛抱ですわ
もう少しお話にお付き合いくださいませ
女将はいよいよ残り少なくなった蝋燭の一本を吹き消した。