真夏の夜の夢
第9章 第八夜
「あ…
えっと…」
言葉が出てこない。
まさか孕ませてしまった女とこんなところで会うなんて…
「お久しぶりね」
まるで過去のことなど水に流したかのように
女は意外とサバサバした口調で健介に声をかけた。
女が車を降りたので
健介が代わりに運転席に乗り込むと
女は助手席に乗り込んできた。
「あの時は…すまなかった」
「もう忘れてくれていいわ
幸か不孝かあのあとお腹の中の赤ちゃんは流れちゃったの…」
「そうか…それは残念というべきか…」
健介は内心ホッとした。
もしかしたら出産していて
ここで出会ったのを機に認知してくれと迫られたらどうしようかと思っていたのだ。
「残念?うふふ…心にもないことを言うじゃない」
女は不気味に微笑んだ。
何故だか背筋が寒くなった。
とっととエンジンを掛けて
逃げてしまおう…
そう思ってイグニッションキーを回した。
ドゥルン!ドドドド!
女があれほど苦心していたのに
健介が試みるとエンジンはすこぶる調子よく始動した。
「よかった!エンジンがかかったわ!」
お礼よ
そう言って女は健介の股間を触ってきた。
「あ、いや…お礼なんて…」
健介は飛び上がらんばかりに驚いた。