マッチ売りの少女と死神さん
第5章 1月2日…だからってXXは無理です
二日目の朝、サラはベッドから起き上がるとベッドサイドのメモを見た。
少し出掛けてくる、とのホーリーからの伝言だ。
綺麗な筆跡のそれを眺め、サラは昨日のことを思い出していた。
****
キッチンでホーリーの腰に腕を回しながら、サラは困っていた。
そして考えながら数えていた。
(恥ずかしさの種類って一体いくつあるのかしら…?)
彼といると恥ずかしいことだらけで、それが一つ一つ違う。
サラはホーリーに感謝したかった。
自分を思いやってくれた彼に。
今朝の自分が身なりを気にしていた、それに気付いてくれていた彼に。
もらった洋服を目の前にサラが涙したのはそれが理由だった。
同じものを返すべきだと思うのに、そのやり方が分からない。
(プレゼントをお返ししようにもお金がないし、ぐずぐずしている暇はないのに)
……サラはいつの間にか、自分の死を受け止める準備が出来つつあった。
元より敬虔なクリスチャンである彼女は、物心がついたときから、死生観について冷静な目を持っていた。
病気で死んだおばあさんもお母さんも、延命をことわって神様の御心のままに旅立っていった。
ただ遺されて故人を恋しいと思う、それは別の問題としても……。
(神様はきっと私に猶予を与えて下さるために、死神として、ホーリーさんという方を遣わしてくださったのだわ)
サラは確信した。
何よりも、きちんと自分の罪を、告白出来る機会を与えてくれた。
自分の寂しさを誤魔化すために、お父さんを利用していたこと。 少なくとも叩かれている最中は、お父さんはあの女性の方を見なかったのだ。 肉体の痛みと引き換えに心の平穏を得ていた浅ましい自分。
そんな、ずっと抱えていた後ろめたい気持ちを誰かに話すことが出来た。
頭の片隅で分かっていても、『お父さんは私のお父さんのはず』と信じ込んでいた。
『それは君が決める事?』
ホーリーが言ったとおり、たとえ肉親でも一人ひとりの人生がある。
他に好きな人が出来たって仕方がない。
ずっと認めたくなかったことを、ホーリーに言われてサラは初めて気付かされたのだ。
それでもホーリーは自分を軽蔑していないという。
罪を赦された気がした。
サラにはもう思い残すことは殆ど無かった。