
マッチ売りの少女と死神さん
第5章 1月2日…だからってXXは無理です
昨日のそんな出来事を考えているうちに、ホーリーが帰ってきたようだ。
「サラちゃん、ただいま」
「お散歩ですか?」
「うん。 今朝、近くでちょっとした事故があったらしくて、気になったからねえ。 どうやら心配ない」
コートを脱いでハンガーに掛ける。
サラは無言でそんなホーリーを見つめていた。
サラには、新しく心残りが芽生えていた。
どこか弱々しそうなホーリー。
いつも手先が冷たいし、それから上手くいえないが、昨日キッチンに立っていた彼が一瞬、霞んで消えてしまいそうな気がしたのだ。
彼は確かに言った。
────まだ大丈夫だよ
考え過ぎかもしれないが、サラは気になっていた。
それはいつか何かが大丈夫でなくなるということ────?
(もしも彼が困っているのならば、私が気にかけないのは恥ずかしいことだわ)
そんな風に感じていた。
「どうしたの? また一緒に二度寝でもするう?」
ぼんやりしているサラをホーリーが意味ありげに覗き込んでくる。 薄く綺麗な形の唇と真っ黒で優しげな瞳。 すると、図らずもお腹の奥がずきんと疼いた。
……これもまた恥である。
「で……でも私、まだ体の傷も治ってませんし」
小声で反論してみる。
「そんなのとっくに治してあげたよお。 ほら、横の鏡見てみなよ」
ホーリーが言う。
それでサラは、ベッド横の壁に掛かっていた鏡を見てみると、口の横にあったはずの傷が消えていた。
「あ、あれ……?」
膝や腕の裏を見るも、打ち身や擦り傷がない。
「なんで……だって、こんな短期間で」
呟くサラにホーリーが、はあヤレヤレと言いたそうに、息をついてゆっくりと口を開いた。
「サラちゃん。 僕は美しい美術品を壊すのは心躍るけど、破れた絵だ散らばった破片だを、そのままにしておく趣味はないんだよねえ。 完全に壊れた人形を愛でても楽しくないし。 この違いは分かるかなあ?」
「ホーリーさんはイタズラっ子なのにキレイ好きってことですか……大変なんですね。 それはいいんですけど、病気や怪我も治せるんですか?」
「イタズラっ子……?」
