
マッチ売りの少女と死神さん
第5章 1月2日…だからってXXは無理です
ホーリーは複雑そうな顔でサラを見たが、そのわけを話してくれた。
「単なる知識だよ……君が寝てる間に薬を塗っといたし、お風呂の薬草や何かは傷に効くから」
それならあんなことしなきゃいいのに、という考えが少しだけサラの頭を掠めたが、今は黙っておくことにした。
彼が面倒な性格だというのは薄らと分かっているつもりだ。
「そうなんですね。 ホーリーさんは物知り」
と、彼の方に振り向くと家の中だからか、ボタンが大きく開いていたシャツの前がはだけている。
明るい場所で、適切な距離でもって改めて意識したのは初めてだった。
当たり前だけれど男性だった。
透けそうに白い肌。
胸からおへそにかけて真ん中で割れていて、胸に薄く筋肉が乗っている。
とても手足が長い。
……それはサラが今まで見たことのない種類の男性の体だった。
「なあに?」
昨日余ったミルクを仕方なさそうに飲んでいた彼が、自らを凝視しているサラの視線に目を眇める。
「……え」
そうしてるうちに突然、部屋のドアをノックする音がした。
「………ミス? ミス・オルセン。 ハロー?」
知らない男性の声だった。
驚いているサラにホーリーが言う。
「オルセンって君のラストネームでしょ」
「あっ! えっ、は、はい!!?」
(な、なに? さっき一瞬、体がクラっとしないような変なめまいが………?)
不思議に思い、サラが小走りでドアに近付く。
ノブを開けると、そこに立っていたのは昨日、食堂でサラに声を掛けてきた人だった。
ここの宿の従業員でもあるらしく、きちんとした白いシャツを着ている。
「フロントから連絡がありまして。 ミスター・クラースよりお電話が入っています。 お繋ぎしていいですか?」
「え…クラースさん?」
「誰?」
「あの、たしかローラちゃんのお父さんです。 なんでここの番号知ってるのかしら?」
「さあねえ、行ってきなよ。 一人で喋ってないでさあ」
はっと気付くと、目の前の宿の人がキョトンとしてサラを見ている。
(そっちが聞いてきたくせに)
再びグフっと気持ち悪く噴き出すホーリーを軽く睨んでから、サラは部屋を出て宿の人の後に続いた。
