
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
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サラが雪まみれになって宿の室内へ戻ってきた時、ホーリーは着替えている最中だった。
「どこかに行くんですか?」
「ニューハウンの港にでも散歩に行ってみようかなあって。 サラちゃんは来客だよねえ。 外は寒かったろうし、休んでるといいよお」
サラはそういえば昨晩、クラース氏からここのホテルに寄りたいと言われていたことを思い出した。
氏いわく
『また仕事でしばらく海外へ行くので、その前にホテルに挨拶に言って構わんですかな』
とのことらしかった。
時計を見るとまだ早い午前中で、彼の訪問までには充分な時間がある。
ニューハウンといえば、ここから歩いて二十分程の港沿いの街だ。
美しい街並みや運河。
日中は観光地として賑わい、さらに夕刻からは道にガス灯がともり、夜は若い男女のための有名な逢瀬の場所でもある。
「わ、私も一緒に行っていいですか?」
サラはいつもそんな光景を横目で通り過ぎてきた。
ジャケットに袖を通していたホーリーが無言で俯いているサラを視界の隅に収める。
「いいけどねえ……コート濡れてない? あんなに走り回ってたのに疲れてないかなあ?」
「いいえ。 ぜ、全然」
男性とそんな場所を二人きりで歩くのは彼女にとって初めての経験。 そう思いついたサラはなにげに顔を赤らめた。
「じゃあ、疲れたら言いなよお? おんぶしてあげるから」
(………おんぶ?)
「屋台とか出てたらお菓子買ってあげるねえ」
サラの脳内に、飴などを手にして父親の背におぶさって喜んでいる子供の姿が浮かんだ。
「私、そんな歳じゃないですよ……」
