マッチ売りの少女と死神さん
第1章 プロローグ
この世に生きている者にとっては触れることはないある世界にて。
ここは広大な洞窟と似ている。
いくらでも入り組んでいて果てがない。
ひらけた荒野があっても、結局そこは岩穴に過ぎない。
ひたすら暗くじめじめとした空気がよどんでいる。
微かにうごめくものもいる。
けれど何にしろ、作ることや育むことをこの世界は放棄していた。
何もかも壊して消え去った後にはこんな風景が残るのかもしれない。
うごめくものがヒュッ。と、より暗い穴の中に消えていく。
その中の一つが向かった先────石造りの壁や天井は同じ色の影をつくっていた。
硬質なさまは温かみを感じることができない。
黒っぽい塊の『なにか』は、音を発していた。
それは
よく見れば人の形に似ているかもしれない。
よく耳をすませば声に似ているかもしれない。
大きな丸い玉の真ん前に『なにか』はいた。
玉の表面は虹色をしていて、透明感のある真珠と似ていた。
パッ、パッ、パッと鮮やかな映像を映しては切り替わる。
それが映していたのは人間の姿だった。
いくつもの時代、
様々な国、
色んな人種、
移り変わる表情────やがてあるところで止まった。
『マッチはいりませんか………マッチを買ってくれませんか………』
レンガの建物が並んだ、素朴な街の景色だった。
か細い声で外を歩く少女がそこに映っていた。
道行く人々が彼女を通り過ぎていく。
その映像を観ているとでもいうのか、妙に感じ入ったようにその場に佇んでいた。
「マッチ………」
それは『なにか』が最初に真似た言葉だった。