
マッチ売りの少女と死神さん
第1章 プロローグ
一日経ち、十日経ち、一ヶ月が経ち一年が経ち────どれぐらいの時が経ったのか。
『なにか』が居た場所には不気味な姿の少年が座っていた。
裸の肩はやせていてその肌は青白い。
頬が痩せこけているせいか、真っ黒な目だけがいやに大きくみえる。
彼はガリガリと真っ黒な爪を噛んでいた。
荒れ放題の彼の髪はもつれて床に流れて垂れている。
『はあ…今日もあまり売れなかった。 お父さんに叱られてしまう』
透明な玉は以前と変わらない少女の姿を映していた。
肩を落として寒空の中をゆく、みずぼらしい格好の女の子。
「………残念だったねえ? またお父さんに殴られてしまうねえ?」
少年はグググ、クスクスと笑い声をあげ、これから彼女の身にに起こることを想像して胸が高鳴った。
少年は映像を細切れにして、大切に大切に少女を観察していた。
彼は今まで様々な映像を観たが、ことのほかにこれが気に入っていた。
ややして、
『きゃああっ! やめて、お父さん!!』
古びた家の中で、悲鳴をあげて逃げる少女。
彼女を追いつめる中年の男の姿がある。
男の目は虚ろで赤黒い顔色をしており、昼間らしいのにもう酒に酔っている様子だった。
『ねえアンタ、その辺にしときなよ…』
『うるせえ!! ガキってのは甘やかすとロクなことがねえんだ!』
男が振り上げた大きな拳が、少女の肩に当たった。
小さな叫び声とともに、彼女の小柄な体は、室内の壁まで突き飛ばされた。
最初は驚き。 次にショックと痛み。 そこに悲しみが入り交じり、それから徐々に恐怖に変わる少女の表情。
それらがスローモーションのように、観ている者の目に焼き付けられる。
「…ああ、たまらない。 かわいい、なんて可愛いんだ」
少年は興奮した面持ちで腕を掻きむしり、大きく呟いてため息をついた。
