マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
「は……え……え? 何よ? 腹式呼吸って」
────いや、正しくはチャクラという場所なんだけどねえ。 丹田ともいうかな。 体の気を集めることで、多分これならまだ何とか話ぐらいは。
「ホー……リーさん……?」
それは間違いなく彼の声だった。
────うん。 生エプロン姿、いいねえ。 可愛い。 すごく可愛い。
(サラ視点では)もの凄くどうでもいいことに興奮しているホーリーの声だ。
「ごめん……なさい。 私、ホーリーさんを……怒らせ」
────ん? 別に怒ってないよお?
「だって…で、出て…出てって…って……」
────だってサラちゃん、そんな風に泣くでしょお
「………」
────突然僕が消えたら、びっくりするだろうし、悲しいかなあって
「か、悲しい……です」
────ごめんねえ
「悲しいです………」
俯いてボロボロ泣き続けるサラを見ていたローラはひたすら呆気にとられていた。
「パパ、パパ……これはサラお姉ちゃんなの? いつも落ち着いていて、しゃんとして」
クラース氏も同じく驚いていたが、その後
「ああ、良かったねえ」
と、口元を綻ばせた。
「良くないわ。 だってこの人多分、妖魔の類い」
────近いねえ。 僕の元は妖魔だから。 正しくは死神だよ。 そんな怖い顔しないでよ、誰も連れていく気はないよお?
ホーリーが言い、サラの体がふわりと空に浮いた。
とても大切そうにサラを抱き上げる死神を、ローラは警戒を込めた眼差しで見上げた。
「………間違ってここに来る妖魔もいたけど、悪さをする前にすぐに死んじゃったわ。 何とか保ってるのは死神だからなのね。 でも、ねえあなた? サラお姉ちゃんは、あたしと同じじゃないの?」
────なんていうか。 サラちゃんは強烈な信仰心の塊なんだよねえ。 普通なら、僕の姿も死期を免れたら、すぐに見えなくなるはずだったんだけど……あのさあ、この子が泣き止むまで傍にいていいかなあ?
「どうぞ、ミスター。 奥の部屋が空いています」
「パパ、死神よ。 いいの?」
「………私にはよく分からないが、今のサラさんにとって彼は大事な人だよ。 とてもね」
見えないにも関わらず、ホーリーはクラース氏に頭を下げた。