マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
傍から見ると不自由なサラの人生だろう。
「やれやれ……すみません、ミスター。 ローラがまた癇癪を起こして部屋に引きこもってしまったようです」
────僕、何かしたあ? そもそもあの子が僕を呼んだんだけど。
とりわけサラ・オルセンという少女は、他者の幸福なくしては安心出来ないという厄介な性格だった。
「ローラはサラさんにとても懐いてますから………自分とは正反対に、落ち着いたサラさんに憧れていたふしがあったので。 突然取り乱して泣かれ、驚いたのでしょう」
ホーリーの存在は、そんなサラを普通の15歳の少女に戻しかけた。
────へえ、はた迷惑な話だねえ。 他人に自分の幻想を押し付けるのは自由だけど、それが壊されたと思うのは、自分の未熟さが原因だもの。
無い物ねだりの八つ当たりってやつ。
それでもサラが踏みとどまった理由は彼、ホーリーの、平凡とかけ離れた背景や言動にある。
────好意と理想は分けて接しなきゃ、相手に失礼じゃないのお?
「ううむ、貴方の言うことは……最もです。 父親としては耳が痛い。 とはいえローラはませているといっても、感性はまだ12の子供ですから……」
老成した思考と幼児のごとく偏向的な性格。
サラの感情が高ぶると逆に冷めていく目の色。
ホーリーもまた、サラ以上に内に歪さを持つ人物だった。
────子供だからって許されるのは、幸福な境遇だね。 結構結構。
ただサラちゃんは昔から相手が自分の思い通りじゃなくたって、責めるような子じゃないけどねえ。
そんなホーリーに対し、サラは踏み出した足を自然に引く癖がついていた。
結果、二人の間に奇妙なバランスが生まれることになる。
サラは自分を見失わずに、その代わり世間の常識を大きく外れて────自分の純潔を奪ったホーリーと、孤独を埋め合い時を過ごすのに、何の抵抗も感じなかった。