
マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
「きっとそうなのでしょう。 けれど私は先ほど、失礼ながらサラさんの、歳なりのつたなさを垣間見れてホッとしました……感情を制御し切れないのもまた、若者の大切な特権ですから」
────まあねえ。 でも、この子は元々泣き虫だよお?
ミスター・クラース。 僕は当面こっちに来れないだろうけどさ。
自分の娘のためにサラちゃんを利用するつもりなら、僕はあんたの子孫を殺して家系を絶やすからね。
サラの視界からホーリーが消えた途端、二人の平衡が崩れた。
前髪から覗く黒い神秘的な瞳に会えない。
長い手足や、骨ばった肩にはりつく白い肌が、もう見れない。
失うことを人一倍恐れる不器用な少女は、心に置きっぱなしだった、膨大な情緒の余剰を涙という形に変換した。
「い、いいえとんでもない。 生涯の恩人のお孫さんに対し、そんなつもりはありません」
────ふふ、その言葉を信じるねえ。
この子はきっと君たちに幸福をもたらす。 どうか大切にして欲しい。
目を閉じたクラース氏は深く頷いた。
彼は見えない者の声を始めて聞いた。
姿が見えないからこそ感じる畏敬の念。
善良な少女を守ろうとするホーリーからは、妖魔や死神などという不吉なものは感じられなく、クラース氏にとってそれはむしろ、人智を超えた啓示にさえ思えるのであった。
