
マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
(……ど、どうしよう、もしもこんな所をクラースさんに気付かれたら)
─────サラちゃんも弾こうよ。
ホーリーが彼女の片手を誘う。
彼の姿は元々見えないし、後ろ向きのサラが今どんな状態かも、クラース氏の位置からは見えないだろう。 そうサラは思うも、自分の顔が真っ赤に火照っているのが分かる。
何度か軽く身じろぎをしてみたが、ホーリーの恥ずかしすぎる悪戯は止みそうになかった。
(彼の手を払いのけたり、やめてって言う方が……不自然、かも)
緊張に何度か小さく唾を呑む。
仕方なく、サラは彼の後に続いて辿たどしく鍵盤を追いかけた。
それは幸いにも小さな水音を誤魔化してくれた。
目眩がしそうにサラの体が揺れる。
「ショパンですか。 ここはモーツァルトやベートーヴェン以外は認めない風潮がありますが、私個人は大好きですよ」
サラにはその曲が何かなど考える余裕がなかった。
────ドイツ人には偉大な作曲家が多いからねえ。
片手で器用に爪弾れる楽器。
一方で、サラの下着に潜り込んでいた指が内部から抜かれる。
(あ…っ!?)
小気味よい打音と同じタイミングで、芽吹き始めていた花芯を刺激する。
サラの背後ではカチャカチャと食器をローテーブルに並べる音が聞こえていた。
塗れた指の腹で蕾を叩かれる動きに耐えるのは難しかった。
呼吸と鼓動がどんどん早くなる。
鍵盤に添えるサラの手首から先が震えた。
彼の指は官能の調べを奏で続ける。
(ああ、もうやめて)
ピアニッシモからクレシェンドへと速さや強さを変える。
やがてそれが『どちらのものか』曖昧になる。
