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マッチ売りの少女と死神さん

第10章 1月4日…死神さんに恋をしました



「またここに居んのお? ここは冥界と天界の狭間かな。 砂漠でいうオアシスみたいな。 まあ、ちょうど僕も喉渇いたからいいけど」

冥王の姿を見付けたカリヌは隣に座り、地面に溜まっている液体を手ですくい、コクコク音を立てて飲み始めた。

これは水というもの。
カリヌの姿が水面に映っていた。

冥王も同じようにしようとしたが、どうやら自分には吸い込む唇や舌が無いようだ。
その時、巨大な黒い物体が水に映り、冥王は驚いて飛び退いた。

「アンタの姿だよお。 僕と違って、立派で力強いと思うよ。 そうだね、まるで創世の男神のよ」

カリヌが途中で言葉を切り彼の方を振り向くと、冥王は大きな体を丸めて後ろ向きにブルブル震えていた。

「ええ、泣くほどのことかなあ……」

起き上がった冥王は、自分とカリヌの姿を交互に指で指してさめざめと泣き続けた。

「僕の姿の方がいいのお?」

冥王は何度も頷いた。

カリヌは色んな色を持っている。
土色と草色の目。
白く輝いて柔らかそうな肌。

冥王にそれらは無く、つるりとした大きなどす黒い肉の塊────それが彼にとって異質で恐ろしかった。

「成長したらさ、姿なんかいくらでも変えられるよお。 けどさ、変な冥王だねえ、アンタ」

カリヌは俯く冥王に寄り添った。
彼の体は暖かく、このオアシスのようないい匂いがした。

「冥王とか死神ってあんま感情持たないって聞いてたよ、アンタははどうも違うんだねえ」

その声は心地好い響きがした。



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