
マッチ売りの少女と死神さん
第10章 1月4日…死神さんに恋をしました
それから何十年も死神は仕事場でぼんやりと過ごすようになった。
宝玉からはカリヌ以上の知識を得ることが出来た。
死神は彼の死後も頑なに話さなかった。
知性の蓋を開けることを拒絶した。
カリヌのことを思い出そうとすると、胸の辺りがたまらなく痛むので、死神はそんな時に自分の腕や腹や足を刻んで肉体の苦痛に没頭した。
頭を爪で抉った際に脳の一部を損傷し、やっと死神は、カリヌのことを自らの記憶から消し去ることが出来た。
傷をつけ過ぎた自分の形が無くなりそうになり、死神は理解した。
この部屋の赤い模様は先代からの血なのだと。
そして死神の体とは勝手に修復されるらしい。
再び思考と肉体が蘇りつつあった。
ただ、カリヌを思い出すことは無かった。
……そんな中、死神は一人の少女を宝玉に見た。
彼女の白い肌は痩せていても柔らかそうで、土のような鳶色の澄んだ瞳に惹かれた。
父親に暴力を受けていたサラは間接的にはであるが、自分と同じに自らを傷付けているようにみえた。
自分が彼女にそうしてあげたい、と死神は思った。
彼女は自らのために取っておいたパンを物乞いに与え、だが彼女の目は決して絶望や諦めを滲ませないのだった。
サラの、際限のない優しさは彼になぜか懐かしさという不可思議な感情を呼び起こさせた。
ある雪の日に見た彼女は何かを売っているようだった。
「………マッチ」
死神が発した始めの言葉だった。
