マッチ売りの少女と死神さん
第11章 1月4日…愛する君へ捧ぐ
「あっ……あ…」
狼狽えるソフィアを諭そうとする父親は穏やかな声をつくり彼女に近付いて行った。
「この子はオレの……大事な…娘だ」
父親の言葉はソフィアに我を忘れさせた。
刃物を彼女が拾い上げるよりも先に、サラがそれを取りあげた。
こんな状況だというのにも関わらず、サラには取り乱した様子がなかった。
サラの心はいつも不幸な人へ向かい傾く。
このままでは父親が傷付いてしまう。
ソフィアが罪人になってしまう。
そう思ったに違いない。
本人よりもホーリーは彼女の考えが手に取るように分かった。
その時のサラの頭には、もはやクラース氏とローラのこともなかったことだろう。
静まり返った室内で、サラは目を閉じてから、両腕に力を込めて自分の首に刃先をあてた。
彼女がその場に崩れ落ちる間に、ホーリーはサラのゆっくりとした唇の動きを何度も読んだ。
『ごめんなさい』
それは天国の祖母と母に向かってだろうか。
その次の彼女の言葉は最悪の形でホーリーを裏切った。
『それに、私は……どうしても、あの人を…一人にしたくないの』
そうして、サラの瞳から光が失せた。
後には父親の叫びが家中に響き渡り、もう動かないサラの亡き殻を揺らしていた。
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