
マッチ売りの少女と死神さん
第11章 1月4日…愛する君へ捧ぐ
……自死とは言うまでもなく大罪にあたる。
誰も傷付けられなかったサラは、他人を救う代わりに自らを傷付け短い生涯を終えた。
死神であるホーリーが唯一予見できない死。
それは自分の意思でいかようにもなる、自殺というものだ。
彼の宝玉のリストには、今はっきりとサラ・オルセンの名が載っていた。
「あ、あああ……サラ、僕は望んでない。 こんな……こんなことを……君に望ん…」
ホーリーは床に這い、血を吐くような呻きをあげた。
救い出したくとも、今のホーリーには人の世界に向かう体力が無かった。
手をついている彼の眼下には自分の血で描いたピアノがある。
いつかサラと一緒に弾くのを彼は夢見ていた。
ほんの少し前まで、ホーリーは幸福だった。
二人で同じ作業をする。 彼女と何かを共有するという喜び。
そして彼女と心から結ばれた瞬間に、ホーリーはようやくサラからの愛情を受けいれ、彼の心は満たされたのだ。
彼女は地獄行きの切符を選んだ。
家族のために。
他人のために。
……ホーリーのために。
ホーリーは自分の頬に手をあてた。
自分の体から涙が出るとは思っていなかった。
「ねえ、君は本当に馬鹿だよね。 幸せに生きることが出来たのに」
彼はきつく口の端を噛み締めた。
「サラちゃん。 せっかくだけど僕は今、ちっとも嬉しくないよ」
