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マッチ売りの少女と死神さん

第3章 1月1日…死神さんに注がれています


年が明けた最初の朝だ。
カーテンの隙間から入り込む陽射しは暖かそうで、どうやら外は晴れているようだ。

サラはホーリーを起こさずに、そっとベッドから起き上がることができたので、部屋の奥にある浴室に入った。
体中についた汚れを落とすためだ。

ここは一部屋しかないが、トイレや浴室、小さな炊事場は一通り揃っているようだった。
時々下の階から話し声が聞こえてきたので、やはりここは宿なのだろうと思った。


湯を体に浴びてほっと息をつくと、昨夜の出来事を思い出した。

(あれは夢じゃないのよね……)

そう思うと体が震えてくる。

『愛してるよ』

ホーリーの声が頭をかすめた。
それと同時に、腟内に溜まっていた体液が内腿につつ、と流れ出たのを感じて顔がかあっと熱くなる。
見るとそれは濃いピンク色をしていた。

(純潔を失った。 そして私は、本当は死ぬはずだったの……?)

彼の言葉にいま一つ実感は湧かないけれど、実際、自分は生きている。
これからの自分の運命はホーリーが握っているということだろうか? 少しの間サラが考え込んだ。


サラはホーリーのことを思い浮かべた。
ひょろっとして背が高く、男性というよりも………少年がそのまま成長したような、不思議な雰囲気を身にまとっている。

ざんばらに切った髪は後ろで括ろうとして紐と一緒に絡まっているようだ。
括っている意味も無く、ボサボサの髪のお陰で、せっかくの一見、優しそうな彼の黒目がちの瞳が隠れてしまっていた。
あれをきちんとして、目の下の不健康そうな隈をどうにかしたら、人の目を引きそうな外見になるのかもしれない。

ホーリーは気味が悪いし、不可解なことを言ったり、ひどいことをする。
それに加えて少女は、表情とともに繊細に移り変わる青年の不安定な性質に気付いていた。
………そのせいで、得体の知れないものを感じる。
それもそうだ。 ホーリーは死神という人智を超えた存在。
ホーリーの起こしたあの奇跡の前では、彼は人間では無いのだと、サラは疑うべきもなかった。

「……し、しっかりしなきゃ」

自分を鼓舞するべく呟き、サラは勢いよく顔を洗った。


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