
マッチ売りの少女と死神さん
第11章 1月4日…愛する君へ捧ぐ
彼はサラの命に見合うものを必死で探していた。
「僕は君を受け入れない。 今さら地獄に送るなんて許さない。 もう誰の魂も冥界に連れてこない。 僕は僕の存在を放棄する」
よろよろと立ち上がったそのままホーリーは壁にもたれた。
自分はこれしか持っていない。
それは一度捨てようとしてホーリーが捨て切れなかったもの。
彼のみに与えられた宿命ゆえに。
「ねえ、神とやらがそこにいるのかな。 そしたら困るよね? 世界がまた混乱するよねえ。 度重なる大戦に、先代の前は黒死病、僕の前は天然痘。 次はどんな厄災が人々を襲うことだろう」
大声をあげた彼は石壁の天井を仰いだ。
「サラちゃんに罪は無いんだ。 僕が彼女に会わなければ、大晦日に彼女は天国に行っていた。 分かるよね」
『冥王、止めなよお。 それ以上はヤバいって』
どこからかそんな声が聴こえた気がしたが、ホーリーはあえて天に向かい唾を吐いた。
「そして、こんな僕らに心なんかを与えたあんたにも責任はある。 呪われたこの部屋をよく見るがいい! 彼女は余分に不幸になる必要はなかった。 彼女に借りを作った償いは平等に行われるべきだろう!! 分かるよねえ!?」
地を割くかの轟音がホーリーの足元を揺らした。
幾筋もの光の束が、彼の体を貫いていく。
「これは僕だけの罪だ」
思考が消え入りそうな苦痛の中で彼は死を意識した。
「僕だけの愛だ………」
大いなる神の怒りをかった死神は次の瞬間、塵も残さず消えた。
『……王様……』
後には小さなすすり泣きが暗い室内に響いていた。
しんとしたそこには相変わらず、大きな白い玉と、それから、岩壁の下にある血文字にはひっそりと新しいものが書き加えられていた。
Decaided to my love.
──────愛する君へ捧ぐ、と。
