
マッチ売りの少女と死神さん
第12章 エピローグ
あわや馬車に接触しようとした所で、カリヌがぐいっと彼の首元を後ろに引く。
「と、停めて!! 人が…」
馬車の中から聴こえた声に、ホーリーは顔をあげた。
「サラ奥さま。 そんな浮浪者は放っておいた方が……酷い匂いですし」
「そんなわけにはいかないわ。 貴方、大丈夫ですか?」
顔をしかめて鼻を押さえる御者に構わず、夫人は馬車を降りてホーリーの元に駆け寄った。
「……見知らぬ奥さま。 感謝いたします」
夫人が手を出しても、彼は立ち上がらないようだった。
彼の閉ざされた目は縫い付けられたように塞がっているし、両腕も無い。
「………」
「サラ奥さま?」
サラと呼ばれた夫人は彼に深い同情を注いでいたが、御者の声に我に返る。
「えっ? ああ、今行くわ………ねえ、貴方」
「何でしょう」
「どこかで会って? 私、昔の……一時の記憶がなくって」
「……気のせいですよ」
「そう。 どうぞ貴方に神のご加護を」
彼女がホーリーの足元に施しを与え、ややして再び馬車へと乗った。
