マッチ売りの少女と死神さん
第3章 1月1日…死神さんに注がれています
今朝のパン屋の一件についても、だ。
(ホーリーさんて鋭い所もあるけど、事によってはもの凄く鈍い人なんだわ)
とサラは思う。
しかも思い込みが激しいし、あまり人の話を聞かないし……? どういうわけだか、気付けばずっと年下のサラの方が、振り回されている感がある。
それでも────おそらく彼でなければ、サラは先ほどのように、異性に自ら体を許すことはなかったような気もする。
そんな説明のつかない思いもあった。
………昨晩は夜も寝れないほどショックだったのに。
『君がそれに拒否感を示す理由を僕は知ってる』
それは彼の指摘だった。
あんなに快感を感じてしまったのは、理由……とやらが無くなったから?
ホーリーは確かにいやらしいのだが、それはふしだらというか………しばらく腕を組んで考えていたサラが思い当たった。
「なんていうか、そう。 いつも真っ直ぐだわ」
彼には嘘がない。
下心を隠しもしないし、やり方はさておき、彼は基本、自分への好意で満ち溢れている。
(私がさっきパン屋さんで傷付いたのは、信用を裏切られた気持ち? 寂しい気持ちかしら?……実は好かれていないと感じたから……とか)
「っ…さすがに無いわ。 会ったばかりの人に対して」
サラはブンブンと勢いよく首を横に振った。
「でもそしたら、私、体だけ気持ちよくなっちゃったの?」
(それはひょっとして、ホーリーさんよりもずっとずっとふしだらなのでは!?)
そう思い付いてしまったサラの顔が真っ青になった。
……さっきから顔色をコロコロ変え、一人で百面相をしているサラを心配したホーリーが話しかけてくる。
「サラちゃん? 何ブツブツいってるのお? え、涙ぐんでる?」
「……なっ、何でもないです! と…ところでっ、さっきから持ってたあの袋…中身は何なんですか?」
「あれ、それも忘れてた。 見てみなよ」
今朝、食堂から出て行ったホーリーと通りで会った時。
それからずっと彼は、手に大き目の紙袋をぶら下げていた。
帰ったなりに、部屋に放られたらしいそれは、乱雑に壁に立てかけてある。
ふう、とため息をついたサラが壁際に向かう。