マッチ売りの少女と死神さん
第4章 1月1日…それはかわいい君のせい
(僕は睡眠も食事も必要がないし…あれ?)
ホーリーは思い出した。
彼は昨晩、ケーキというものをつまんだし、睡眠を初めてとったのだった。
「僕はずっと冥界で生まれ育ったから……なるほどねえ、食事かあ」
睡眠や飲食は、ホーリーにとっては害なのかもしれない。
単にここの住人に拒絶されているのかと思っていたホーリーは、そもそも自分自身がこの世界にそぐわない作りなのだと気付いた。
手を見るとしまいに指先が細かく震えていた。
この感覚は身に覚えがある。
今の自分にとって、ここはきっと、人間が水中か月の上にいるみたいなものなんだろう。
「よく分かりませんけど、辛いですか? 少し……昨日よりも顔色が悪いです」
「まだ大丈夫だよお? それよりこれさ、冷たいとお腹を壊さないのかなあ」
ホーリーがミルクパンにカップの中身を移そうとした。
すると立ち上がったサラが慌てた様子で彼の手首をつかんで止めた。
「全然平気です! こんな美味しいサンドイッチを初めて食べましたし……」
「なあに、いきなり。 危ないよ」
こぼれたりサラが火傷をするかと思って、注意したホーリーだったが、サラは頑固に彼の袖を両手で引っ張り、カップをコンロから降ろさせた。
「あの……ありがとうございます。 お洋服や食事はもちろん嬉しいですけど、ホーリーさんの気持ちがとても嬉しいです。 ありがとうございます」
「……?」
「だからいいんです!」
ホーリーは「ありがとうございます」とお礼を繰り返すサラが分からなかった。
なんだか彼女の体が震えているような気がしたので、頭に手のひらを乗せるとサラの顔が赤くなる。
しまいに袖の端から手を離したサラは、そろそろとホーリーの胴に腕を回した。
「……これってどういう状況なのお?」
ホーリーが疑問に思って質問してしまうほど、奇怪なサラの行動である。
「か、感謝の表現……かつ、ホーリーさんを温めてるんです」
そう言うとホーリーが噴いた。
「…ぐ、グフっくく…またベッドに行くう?……くくく、くくっ…」
「行きません。 その前に私が死んでしまいます」
なぜだか笑いが堪えられないホーリーと、むっつりした表情で、感謝の表現を示し続けるサラだった。