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『エリーゼのために…』

第1章 エリーゼのために…

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 僕は父親の静岡県の実家から帰ってきた次の日の朝イチに…
 葵さん宅へ走って行ったんだ。

 僕の家から葵さん宅までは走ったら五分と掛からない…

 ピンポーン…
 玄関のインターホンを鳴らす。

 ピンポーン…

「………………」
 だが、応答が無い。

 仕方ない…
 僕は、あの通い始めた頃の様に玄関脇から中庭へと入っていき、あのいつものピアノのあるリビングの窓際へと向かう。

「あ…」
 なんと、カーテンが閉まっていた。

 いつもはこのリビングはカーテン等は閉まっていた事が無く、この立派な中庭が望めていたのだが…
 だけど今、カーテンが閉まっておりリビングの中は全く見えない。

 そして僕はもう一度玄関に戻り、今度は改めて奥のガレージに目を向けた…

「あ…」
 するといつもはガレージに鎮座しているなんて名前だか分からないけど、立派で、見るからに高級車と解る葵さんの父親の大きな外車も無い。
 
 る、留守なんだ…

 誰も居ないみたいだ…

 いつも大抵は、葵さんのご両親が不在でも家政婦さんが居るのだが、その家政婦さんさえも居ない。

 僕は…

 また急にザワザワとした騒めきが、いや、不安な想いの胸騒ぎがしてきていた。

 やっぱり…

 何かあったんだ…

 いや、何かが起こった、起きているんだ…

 一体何が起きているんだろうか?…

 だけど僕には想像すら思い浮かばない。

 だって…

 つい五日前…

『もう四日間も駿に逢えないなんて辛いわぁ…』
 って、葵さんは云っていたんだから。

 なのにその次の日からはLINEの既読さえ付かない位の、全くの音信不通になってしまっているのだ…

 何かが起きている…

 起こっているんだ…

 胸騒ぎが…

 いや…

 悪い予感しかしない…

 そしてその悪い予感さえ、全く想像も、予想すら…

 できない…




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