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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第7章 対立

 宮廷医でもある尚薬をひそかに呼んで訊ねても、特に王の健康に問題はないと断言する。
「そなたには何でも丸判りだな、隠し事はできない」
 王は苦笑いしながら、最近の朝廷での様子を語った。
 それは昨日の朝のことだった。
 徳宗を中心とする改革派のメンバーが集まり、会談の場を持ったのだ。出席したのは吏曹参(チヤン)判(パン)である孫東善を初めとした三人である。
 もとより公式の会議ではなく、ごく私的な会合であった。
―孫大監がこちらに乗り換えたことによって、保守派は大いに混乱しております。この際、機会に乗じて一気に叩き潰してはいかがでしょう?
 兵(ピヨン)書(ジヨ)参(チヤ)知(ムチ)の張(チヤン)尚(サン)顕(ヒヨン)が身を乗り出して発言する。
 参知というのは、その部署では上から三番目の位を意味する。ちなみに筆頭は〝判(パン)書(ソ)〟、二番目は〝参(チヤン)判(パン)〟だ。
―しかし、一網打尽にするとは申しても、何の落ち度もないものをいかにして叩けば良いのだ? 明確な理由がない。
 徳宗は困惑しながらも応えた。
 と、尚顕はニヤリと口角を笑みの形に引き上げた。
―理由がなければ、作ればよろしいではございませぬか。
―馬鹿な。我等の志はあくまでも政道を正すこと、本来あるべき姿に戻すことであって、相手を陥れる謀を巡らしているわけではないのだぞ。そのような罠を仕掛けるような卑怯な真似は予はできぬ。
 徳宗が不快感を露わにすると、尚顕は大仰な溜息をわざとらしくついて見せた。
―殿下、そのような青臭い若造のようなことをいつまでも仰せになっていては、我等の本懐を遂げることは叶いませぬ。
 五十歳になる尚顕に若造呼ばわりされた四十歳の王は、流石に眉をつり上げた。
―兵書参知、そなたは予を青臭い若造と申して愚弄致す気か?
 険悪な雰囲気になった二人の間に、孫東善が割って入った。
―尚顕どのも少し言葉が過ぎましょう。いかに殿下がご寛容なるお方とはいえ、臣として国王殿下に対する適切な物言いとは思えませぬ。殿下、殿下もどうかお心を鎮められますよう。尚顕どのも冗談が過ぎただけにござりましょう。

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