
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第8章 いつか、きっと
いつか、きっと
その夜、莉彩は自室で一人、物想いに耽っていた。莉彩の手には、あのリラの簪が握られている。ゴールドの簪に可憐なリラの花が幾つかついたその簪こそが、徳宗と莉彩を結びつけたといっても良い。
莉彩の父が韓国のとある町の露店で見つけた不思議な簪は離れ離れになった恋人たちを結びつける力を秘めている。かつて李氏朝鮮王朝時代、何代めかの国王の寵姫が愛用していた品だという言い伝えがあった。
この簪が五百六十年ものはるかな時の向こうにいる徳宗と莉彩を引き寄せたのだ。
と、突如として莉彩を猛烈な吐き気が襲った。ここ十日余りの間、いつも莉彩を執拗に苦しめてきた。胃の腑からせり上がってくるような吐き気に、莉彩は胸許を押さえ、蹲った。ろくに食べてはいないため、吐いても出でくるのは苦い胃液ばかりだ。
頑固な吐き気は、しばらく莉彩を苛んでからやっと治まった。この吐き気が何なのか、莉彩にはおおよその想像はついた。
むろん、最初はただ胃の調子が狂ったとしか考えていなかった。だが、一週間ほど経っても一向に治まる様子がない。その時、莉彩は愕然とした。
―妊娠したかもしれない。
唐突に浮かんだその疑念を莉彩は考え過ぎだと思った。が、指を折って数えた時、この時代に来てから、一度しか生理が来てないことに気付いたのである。
その点、莉彩は至って順調だった。なのに、月に一度は決まってきていた生理が来ていない。いちばん最後の生理は、この時代に来てから少し経った頃のことだった―。つまり、王に初めて抱かれてから、生理は全く来ていないのだ。その事実を悟った時、莉彩は自分が徳宗の子を身籠もったかもしれないことに思い当たった。
―どうしよう。
莉彩はその事実を知った時、一人で泣いた。
本当なら、歓ぶべきことだった。大好きな男の子どもを授かったのだ。が、王と大妃の確執や自分の立場の複雑さを考える時、やはり素直には歓べないものがあった。
いざ妊娠するまでは、徳宗の子を腕に抱いてみたいと女性らしい願いを持っていたこともあったのに、それが現実となると、ただただ混乱するばかりだった。
莉彩が尚薬の診察を拒んでいるのは、自分の妊娠を知られたくなかったからだ。
その夜、莉彩は自室で一人、物想いに耽っていた。莉彩の手には、あのリラの簪が握られている。ゴールドの簪に可憐なリラの花が幾つかついたその簪こそが、徳宗と莉彩を結びつけたといっても良い。
莉彩の父が韓国のとある町の露店で見つけた不思議な簪は離れ離れになった恋人たちを結びつける力を秘めている。かつて李氏朝鮮王朝時代、何代めかの国王の寵姫が愛用していた品だという言い伝えがあった。
この簪が五百六十年ものはるかな時の向こうにいる徳宗と莉彩を引き寄せたのだ。
と、突如として莉彩を猛烈な吐き気が襲った。ここ十日余りの間、いつも莉彩を執拗に苦しめてきた。胃の腑からせり上がってくるような吐き気に、莉彩は胸許を押さえ、蹲った。ろくに食べてはいないため、吐いても出でくるのは苦い胃液ばかりだ。
頑固な吐き気は、しばらく莉彩を苛んでからやっと治まった。この吐き気が何なのか、莉彩にはおおよその想像はついた。
むろん、最初はただ胃の調子が狂ったとしか考えていなかった。だが、一週間ほど経っても一向に治まる様子がない。その時、莉彩は愕然とした。
―妊娠したかもしれない。
唐突に浮かんだその疑念を莉彩は考え過ぎだと思った。が、指を折って数えた時、この時代に来てから、一度しか生理が来てないことに気付いたのである。
その点、莉彩は至って順調だった。なのに、月に一度は決まってきていた生理が来ていない。いちばん最後の生理は、この時代に来てから少し経った頃のことだった―。つまり、王に初めて抱かれてから、生理は全く来ていないのだ。その事実を悟った時、莉彩は自分が徳宗の子を身籠もったかもしれないことに思い当たった。
―どうしよう。
莉彩はその事実を知った時、一人で泣いた。
本当なら、歓ぶべきことだった。大好きな男の子どもを授かったのだ。が、王と大妃の確執や自分の立場の複雑さを考える時、やはり素直には歓べないものがあった。
いざ妊娠するまでは、徳宗の子を腕に抱いてみたいと女性らしい願いを持っていたこともあったのに、それが現実となると、ただただ混乱するばかりだった。
莉彩が尚薬の診察を拒んでいるのは、自分の妊娠を知られたくなかったからだ。
