
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第8章 いつか、きっと
或いは崔尚宮は莉彩の懐妊に薄々勘づいているのかもしれない。いつも傍に控えている崔尚宮が今の莉彩の状態を見て、疑念を抱かぬはずがない。なのに、敢えて口にしないのは、肝心の莉彩当人が懐妊の事実を明らかにしたくないことを崔尚宮が見抜いているからだ。
崔尚宮とは、そういう人なのだ。孔尚宮や劉尚宮とは異なり、目立つことはないけれど、他人の心を思いやることのできる人だ。
だからこそ、莉彩も崔尚宮には心を許している。しかし、このことだけは崔尚宮に相談することもできなかった。徳宗の御子を身籠もったことを、誰にも知られたくないのだ。崔尚宮に打ち明ければ、尚薬の診察を受けなければならなくなり、誰もが莉彩の懐妊を知るところとなる。それだけは避けたかった。
莉彩の懐妊を知れば、徳宗は歓んでくれるだろう。何しろ四十歳になる今まで、王子どころか王女の一人すらいなかったのだから。
今日、莉彩は金大妃に突如として囚われ、またしても鞭打ちの刑罰を受けた。幸いにも一度打たれただけのところで徳宗が駆けつけたため、前回のときのような大事にはならなかった。
だが、妊娠している身体で幾度も鞭打たれていたら、お腹の子はどうなっていたか判らない。最悪の場合、流産したかもしれないのだ。あのときは徳宗の代わりとなって死ぬのなら、構いはしないと思った。その想いは今も何ら変わらない。が、改めて自分の胎内に新しい生命が息づいていることを考えた時、やはり恐怖に身が竦みそうになるのも確かだ。
莉彩は大妃が怖ろしかった。莉彩の懐妊が発覚した時、大妃がどう出るかを想像しただけで、怖ろしさに叫び出しそうになる。徳宗を憎み、徳宗の大切にするものすべてを根こそぎ破壊し尽くしそうとするあの大妃が莉彩の妊娠を歓ぶはずがない。莉彩の腹が膨らんでくるのを、煮えたぎるような苛立ちと憎しみでもって眺めるだろう。
もし、大妃の魔手がお腹の子どもにまで伸びたら―。その可能性がないと、誰が言い切れよう?
―孫淑容の代わりに私をその鞭でお打ち下さいませ。
大妃の前に跪いて懇願していた時、徳宗は泣いていた。莉彩は精悍な王の横顔につたう涙を確かに見たのだ。
自分の存在がそこまで王を追いつめ、苦しませているのだと知ったときの莉彩の衝撃は大きかった。
崔尚宮とは、そういう人なのだ。孔尚宮や劉尚宮とは異なり、目立つことはないけれど、他人の心を思いやることのできる人だ。
だからこそ、莉彩も崔尚宮には心を許している。しかし、このことだけは崔尚宮に相談することもできなかった。徳宗の御子を身籠もったことを、誰にも知られたくないのだ。崔尚宮に打ち明ければ、尚薬の診察を受けなければならなくなり、誰もが莉彩の懐妊を知るところとなる。それだけは避けたかった。
莉彩の懐妊を知れば、徳宗は歓んでくれるだろう。何しろ四十歳になる今まで、王子どころか王女の一人すらいなかったのだから。
今日、莉彩は金大妃に突如として囚われ、またしても鞭打ちの刑罰を受けた。幸いにも一度打たれただけのところで徳宗が駆けつけたため、前回のときのような大事にはならなかった。
だが、妊娠している身体で幾度も鞭打たれていたら、お腹の子はどうなっていたか判らない。最悪の場合、流産したかもしれないのだ。あのときは徳宗の代わりとなって死ぬのなら、構いはしないと思った。その想いは今も何ら変わらない。が、改めて自分の胎内に新しい生命が息づいていることを考えた時、やはり恐怖に身が竦みそうになるのも確かだ。
莉彩は大妃が怖ろしかった。莉彩の懐妊が発覚した時、大妃がどう出るかを想像しただけで、怖ろしさに叫び出しそうになる。徳宗を憎み、徳宗の大切にするものすべてを根こそぎ破壊し尽くしそうとするあの大妃が莉彩の妊娠を歓ぶはずがない。莉彩の腹が膨らんでくるのを、煮えたぎるような苛立ちと憎しみでもって眺めるだろう。
もし、大妃の魔手がお腹の子どもにまで伸びたら―。その可能性がないと、誰が言い切れよう?
―孫淑容の代わりに私をその鞭でお打ち下さいませ。
大妃の前に跪いて懇願していた時、徳宗は泣いていた。莉彩は精悍な王の横顔につたう涙を確かに見たのだ。
自分の存在がそこまで王を追いつめ、苦しませているのだと知ったときの莉彩の衝撃は大きかった。
