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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

「私がこの時代に再び現れたことも、むろん、あの子のことも、国王(チユサン)殿下(チヨナー)には知らせないで欲しいのです」
 淑妍は小さな吐息をついた。
「殿下は、あなたのことを片時たりともお忘れになってはおりません。この四年間、あなたの面影をお心に抱(いだ)かれ、側室はおろか、女官の一人をもお側にお召しにはなりませんでした。あなたにお逢いになれるとお知りになれば、どれほどお歓びでしょう」
 莉彩はうつむき、首を振る。
「私はもう殿下にはお逢いしない方が良いのです。淑妍さま、私という存在は、殿下の進まれる道の妨げになるばかりです。私がこの時代に来たと大妃さまの知るところとなれば、大妃さまはまた私を使って殿下をお苦しめになられる。それに、この子だって無事だという保証は何らありません」
「淑容さま、よもや、このお子は―」
 言いかける淑妍の言葉を莉彩が鋭く遮った。
「お願いにございます! どうか何も仰らないで下さい。この子が生まれてから三年間、私はこの子を育てることだけに専念して参りました。この子にもしものことがあれば、私も生きてはいられません。ですから、どうか、私たち母子(おやこ)をそっとしておいて頂きたいのです」
 思わず眼頭が熱くなる。零れ落ちそうになる涙を堪え、莉彩は淑妍に頭を下げた。
 そんな莉彩を淑妍は黙って見つめていた。

 それから数日が過ぎた。
 莉彩は淑妍の許に滞在していたが、一日も早くここから出ていくべきだと感じている。淑妍は今のところ莉彩の頼みをきいてくれているようだが、いつ気が変わるとも知れない。
 徳宗には逢いたかったが、我が子を身の危険に晒すことはできない。
 愕くべきことに、聖泰もまた言葉に関しては莉彩がタイムトリップしたときと全く同じ現象が起きているようであった。この時代に来るまでは日本語しか知らなかった三歳児が今ではハングル語を自在に操っている。
 ということは、聖泰もまた来るべくして、この時代へと導かれのだろうかとも思えた。
 あの老人には、莉彩がここに現れることは最初から判っていたという。確かに、彼は度々、莉彩に言っていた。
―強い縁で結びついた者同士というものは、いかにしても引き離すことはできぬのです。

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