
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
更に孔尚宮はもう一つ玉(オク)牌(ぺ)を取り出し、莉彩の傍らに立つ聖泰に渡した。
―こちらは大妃さまより王子さま(ワンジヤニィ)へお渡しするようにと。
―孔尚宮。
莉彩が何か言おうとするのに、孔尚宮は毅然として言った。
―淑容(スギヨン)さま(マーマ)。大妃さまはすべてをご存じでいらっしゃいます。聖泰さまが紛れもなく国王殿下のお血を引く王子さまであることもご承知の上で、淑容さまとお二人を都から出して差し上げるご決意をなさったのです。
すべては莉彩当人の意思を尊重したからだ―と、孔尚宮の眼は語っていた。
孔尚宮はしゃがみ込むと、聖泰の顔を覗き込むようにして言った。
―この玉牌はとても大切なものにございます。これは、王子さまが朝鮮国王の血を受けた御子であること、この国の正統な世子(セジヤ)であることを証明する品にございますゆえ、何があっても、落としたり無くしたりなさってはなりませぬ。
―はい。
事情は判らぬなりに、聖泰は玉牌がとても大切なものなのだとは理解したらしく、素直に頷いた。
玉牌とは、身分の高い人が持つ飾りで、一種の身分証明書の代わりとでもいえようか。
大妃は、どれほど都から遠く離れようと、聖泰がこれを持っている限り、徳宗の子であるという証を与えたのである。
利発げにこっくりとした聖泰の頭を孔尚宮が撫で、莉彩に深々と頭を下げた。
―どうか、道中、くれぐれもお気を付けて。
莉彩は外出用のコート(外套)を頭からすっぽりと被っていた。この時代の朝鮮では、女たちが外出する際には、大抵、このコートを着用する。
コートを着た莉彩は聖泰の手を引き、都を覆う深い闇の中へと吸い込まれるようにして消えた。
あれから二年。大妃が餞別にとくれた巾着には、翡翠の腕輪が幾つかと、珊瑚の指輪が入っていた。どれも高価なものばかりだった。莉彩はその中の腕輪三つを売って金に換え、道中の路銀に充てた。残った腕輪一つと指輪は大妃からの形見として大切に今も取っている。
―こちらは大妃さまより王子さま(ワンジヤニィ)へお渡しするようにと。
―孔尚宮。
莉彩が何か言おうとするのに、孔尚宮は毅然として言った。
―淑容(スギヨン)さま(マーマ)。大妃さまはすべてをご存じでいらっしゃいます。聖泰さまが紛れもなく国王殿下のお血を引く王子さまであることもご承知の上で、淑容さまとお二人を都から出して差し上げるご決意をなさったのです。
すべては莉彩当人の意思を尊重したからだ―と、孔尚宮の眼は語っていた。
孔尚宮はしゃがみ込むと、聖泰の顔を覗き込むようにして言った。
―この玉牌はとても大切なものにございます。これは、王子さまが朝鮮国王の血を受けた御子であること、この国の正統な世子(セジヤ)であることを証明する品にございますゆえ、何があっても、落としたり無くしたりなさってはなりませぬ。
―はい。
事情は判らぬなりに、聖泰は玉牌がとても大切なものなのだとは理解したらしく、素直に頷いた。
玉牌とは、身分の高い人が持つ飾りで、一種の身分証明書の代わりとでもいえようか。
大妃は、どれほど都から遠く離れようと、聖泰がこれを持っている限り、徳宗の子であるという証を与えたのである。
利発げにこっくりとした聖泰の頭を孔尚宮が撫で、莉彩に深々と頭を下げた。
―どうか、道中、くれぐれもお気を付けて。
莉彩は外出用のコート(外套)を頭からすっぽりと被っていた。この時代の朝鮮では、女たちが外出する際には、大抵、このコートを着用する。
コートを着た莉彩は聖泰の手を引き、都を覆う深い闇の中へと吸い込まれるようにして消えた。
あれから二年。大妃が餞別にとくれた巾着には、翡翠の腕輪が幾つかと、珊瑚の指輪が入っていた。どれも高価なものばかりだった。莉彩はその中の腕輪三つを売って金に換え、道中の路銀に充てた。残った腕輪一つと指輪は大妃からの形見として大切に今も取っている。
