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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 今年の夏は極端に雨が少なかった。秋の実りはあまり期待できそうになく、飢饉が起こるのは明らかだ。そうした中で、たいした労働力、働き手にならない幼い少女はわずかな金のために実の親に売られることが多かった。
 妓楼に売られた娘はやがて成長すれば、遊女となって客を取る。夜毎、男たちの間を流れ、漂う悲惨な運命を辿るのだ。
 売られていった子は、聖泰とは殊に仲が良かった。まだわずか八歳ながら、家計を助けてよく働くと評判の親孝行娘だったのに、父親が酒好きで毎日、浴びるように酒を呑む。父親は酒代欲しさに娘を売ったのだ。酒さえ呑まなければ、一家五人何とか暮らしてゆけたものを、食糧難は日々、深刻になるばかりで、その日食べる米さえ底を突くようになってしまっては致し方なかった。
 聖泰は、その娘を姉のように慕っていた。
 その少女が売られていった日、聖泰は大きな眼に涙を一杯溜めて村の入り口まで送っていった。その日を境に聖泰は何事か考え込んでいることが多くなった。
 少女が売られてから数日後、聖泰が徳宗に訊ねた。
 丁度その時、徳宗は畑仕事を終え、家の中でひと息ついているところだった。
 元々、剣術・馬術などの鍛錬も欠かさない徳宗は特に護衛が要らないといわれるほど武芸にも秀でていた。ゆえに力仕事も楽々とこなしている。
 連日の畑仕事で陽に灼けたその貌は男らしく、髭を剃ってさっぱりとしたその整った貌は精悍さと若々しさを増したようで、村の女たちからも〝こんな男前は小さな村には勿体ないよ〟と熱い視線を集めていた。
「お父さん(アボジ)、この国にはどうして、こんな風にお金持ちと貧しい人がいるの?」
「ホホウ、そなたはその小さな頭で随分と難しいことを考えておるのだな。聖泰、そなたは何故だと思う?」
 徳宗は幼い息子の疑問をはぐらかしたりせず、ちゃんと受け止めた。
「それは、貧しい人たちからたくさん取り上げる人がいるからじゃないかなぁ」
 徳宗は額に滲んだ汗を手のひらで無造作にぬぐいながら、笑みを浮かべる。
「そなたの言うとおりだ。難しい言葉で言えば、不当に搾取する―、つまり、取り上げる人がいるから、持っているものが少なくなり、生活が苦しくなる。聖泰は、そのような人々を助けるためには、どうすれば良いと思うのだ?」

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