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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

 頬の熱さを隠すように、うつむきながら言うと、王は笑った。
「いいや、莉彩の淹れたお茶もなかなか美味いぞ。莉彩、乳母がそなたを宮殿に寄越した意味がやっと判った」
「え―、それは、どういう意味にございましょう」
 思いもかけぬ話に、莉彩は眼を見開いた。
「そなたが入宮する前、臨尚宮はそなたに何か申してはいなかったか?」
 莉彩は小首を傾げた。
 あの時、臨尚宮が突然、莉彩の部屋を訪ねてきて、二人で香草茶を飲んだ。
―あの方は日々、お心淋しく過ごしておいでです。どうか、あの方のお力になって差し上げて下さい。
 彼女は確かにそう言った。あのときはまだ、〝あの方〟が国王だとは想像だにしなかったのだが。
 莉彩が淑妍の言葉をそのまま伝えると、王は頷いた。
「さもあらん。臨尚宮らしいやり方だ。優しげな振りをして―、まっ、実際、私には母代わりの優しい乳母であったが。さりながら、あれでなかなか海千山千の女傑だぞ? 乳母はそなたを端から私の支えとするつもりで入宮させたのだ。つまり、私もそなたも乳母の策略にまんまとのせられたというわけだな」
 王は愉快そうに声を上げて笑った。
「私としては、そなたとこうして共に過ごせる時間を与えてくれた乳母に幾ら感謝しても足りぬほどだが」
 直截な物言いに、また莉彩の頬が染まる。
 そんな莉彩を見ていた王の顔がわずかに翳った。
「実は今宵は、そなたに話したいことがあって参った。あの例の簪、りらの花を象った簪を今一度見せてはくれぬか」
「はい」
 莉彩は部屋の片隅にある小箪笥の引き出しから、簪を出してくる。
 渡された簪を王は慎重に眺めた。
 室内では、蝶を象った燭台で蝋燭が燃えていた。その淡い光を受けて、アメジストがきらきらと輝く。
「やはり、な」
 王は莉彩に簪を返し、納得したように頷いた。
「この簪が、どうかしたのでしょうか」

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