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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

部屋の前は磨き抜かれた廊下になっている。女官たちの部屋が廊下を挟んで並んでいるのだ。莉彩は頷き、注意深く周囲を見回してから、王を招じ入れ元どおりに扉を閉めた。
 上座に座った王の前で、莉彩は手早く香草茶を淹れた。臨尚宮直伝のお茶だ。
 香草茶は茶葉が開くまでに多少、時間を要する。慌てず、ゆっくりと。
―子どもが泣き止むのを辛抱強く待つように、茶葉が開き切るのを待ちなさい。
 淑妍は、そう形容した。
 今夜もまた茶葉が開くのを待ち、ポットから湯呑みに茶を注ぐ。
「どうぞ、お召し上がり下さいませ」
 王は言われるままに湯呑みを手に取り、ひと口含んだ。
「これは―」
 眼を瞠った王に、莉彩は微笑んだ。
「殿下のお好きな香草茶ですわ」
 王は普段纏っている龍袍(りゅうほう)から、ゆったりとした私服に着替えている。龍袍は紅地に飛翔する龍が金糸で大胆に縫い取られている国王だけに許される正装だ。いうなれば、公の場で着用する衣服であり、今は、淡いピンク地の上下を着ていて、龍袍を着用した際に被る冠も被っていない。
 龍袍姿の王も凛々しく威風堂々としていて見映えが良いが、こうして寛いだ私服姿もまた若々しさが引き立っていて、見惚れるほどだ。
「この茶を私が好きなのをよく存じておったな」
 王が悪戯っぽい口調で言うのに、莉彩はつられるように笑った。
「さては、そなたに入れ知恵を致したのは臨尚宮だな」
 ややあって、王が肩をすくめた。
「まあ、入れ知恵だなんて、人聞きの悪い」
 つい砕けた物言いになり、莉彩は狼狽える。
「申し訳ございません(ハンゴンハオニダ)」
 こんな場面を劉尚宮に見られたら、それこそどんなに怒られるか知れたものではない。
「良いのだ、自然体でいる方が、そなたらしくて、私は好きだ」
 〝好きだ〟のひと言に思わず頬が熱くなる。何げない言葉なのに、過剰に反応する自分が情けなかった。
 莉彩の狼狽を知って知らずか、王は思案顔である。
「殿下、どうかなさいましたか? やはり、私の淹れたお茶では、臨尚宮さまのお淹れになったお茶ほどは、殿下のお口には合いませぬか?」

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