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ビッケとビッチ

第3章 11月23日木曜日勤労感謝の日の夜…

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「ごめんなさい…」
 だから、そんな謝る程の事では無いのであるのだが…
 ある意味、わたしには悪さだったという事だけなのであった。

「うん、大丈夫よ、だから謝らないで」
  
 逆に、そんな事に反応したいい歳したわたしが悪いのだ…

「はい」
 
「それよりさぁ、アノ場面のさぁ…」
 と、わたしは話しを切り替える為にも映画の感想を話していく。

「あぁ、あれっすかぁ」

「うん、そうそう…」

 と、久しぶりに映画の感想を言い合う…
 お茶を飲みながら話しをする…
 それ等が、凄く楽しかったし、愉しかった。

 そして時刻は間もなく午前零時に近い…

「帰りましょう…」
 世の中は4連休の人も多いみたいなのだが…
 わたしも、市役所勤務の和哉くんも、明日は仕事なのである。

「帰りたくないなぁ」
 和哉くんはボソッとそう呟く。

「ダメ、だめよ…
 それに、まだ生理も終わらないしね…」
 と、迂闊にも、まるで気心を許し合った恋人同士みたいな言葉を言ってしまった。

「あ、はい、そうっすね、帰りますかぁ」
 そんなわたしの何気ない言葉に彼はピンと来たのか…
 急に嬉しそうな声を出して、クルマを出す。

 やはり、和哉くんは意外に繊細で聡明なのだ…
 いや、だから、わたしは気に入ったのだが。


 だが…

 帰途中のクルマは…

 右に曲がる筈の交差点を…
 
 左折したのだ…

「え…」
 だが、和哉くんは黙って運転をしていた。

 それに対してわたしは…
 それ以上、なんとなく話掛けられないでいた。

 その左折の先には河川敷の公園があるのだ…

 そしてクルマは河川敷公園の駐車場へと入って行き…

 一番奥の角の駐車スペースに静かに停まる。

 車内には…
『ユーミン50周年記念アルバムのCD』が静かに流れていた…



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