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ビッケとビッチ

第3章 11月23日木曜日勤労感謝の日の夜…

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 そしてクルマは河川敷公園の駐車場へと入って行き…
 一番奥のスペースに静かに停まった。

 車内には…
『ユーミン50周年記念アルバムのCD』が静かに流れていた…

「……………」

「……………」

 二人の間には微妙な沈黙の空気が…

 その静寂の中を、ユーミンの優しい歌声が静かに流れている。


 和哉くんの気持ちは痛い程分かる…

 いや、分かってはいた…

 そして今の、この今の時期が一番高まり…

 昂ぶり…

 心が揺れるのも十分分かるし…

 理解も出来る…

 だけど、わたしと和哉くんは、純粋な恋愛関係ではなく…
 あくまでもセフレという関係を前提とした関係なのである。

 確かに、あの初めての夜に…
 
 昔のペット的な感情を感じ、こういう前提とした条件の関係を提示したのだが…

 そしてその関係は、もちろん恋愛関係をも含むのも分かってはいる…

 いや、本来ならば、恋愛関係のその先のカタチがセフレという関係なのかもしれないが…

「ゆ、悠里さん…」
 すると、二人の沈黙を破って和哉くんが口を開く…

「………」

「ゆ、悠里さん、好きです、好きなんです、大好きなんです」

 奇しくも、このタイミングでスピーカーからはユーミンの
『リフレインが叫んでる』
 が、流れてきた。

 そして…

「ゆ、ゆりさぁんっ…」
 と、そう叫び、抱き付き、キスをしてきたのだ。

「あ…ん……」

 わたしは、避ける気ならば逃げられたのだが…

「好きなんです、大好きなんですぅ…」

 ここまで昂ぶらせてしまった和哉くんを避ける事は…
 出来なかった。

 さすがにこの28歳という年齢では…

 ましてや独身の男なのだ…

 恋愛関係を通り越してのセフレなんて…

 無理に決まっている…

「ゆ、ゆりさぁんっ、大好きです…」

 いや…

 わたしだって…

 無理かも…

 いや、無理だ…

「あん、か、かずやくん…
 わたしも…
 わたしも…」

 わたしも…

「和哉くんが…大好きっ…」

 とうとう…

 心の壁を…

 自ら壊してしまった…





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