革靴を履いたシンデレラ
第2章 舞踏会の心得
シンデレラは自分がどこか腑に落ちない理由を考えた。
まるで相手の視力がないと自分という存在は大したことがない、そう思わされる気がしたのだ。
それを誤魔化すためにシンデレラが苦笑した。
「失礼。 どうやら少々緊張しておりまして。 情けないことに」
「まあ…ふふふ。 とてもお上手ですわ」
リーシャは指先まで優雅な仕草で彼と踊りながら、再び笑顔を浮かべた。
(お上手、ときたか。 フ…やれやれ)
そんな風に、彼女がふうわりと笑った時、シンデレラは再びリーシャに引き込まれた。
音楽が止み、リーシャがすっと手を外す。
「素敵なひと時を、ありが」
シンデレラが彼女の背中を引き寄せ彼女の頬を手のひらで包んだ。
小さな頬だと思い、そして、彼を見あげたリーシャに口を付けた。
瞬きとも思われる後、すぐに唇を離したシンデレラに、リーシャは動揺するわけでもなくわずかに咎める視線を寄越す。
「………私は、軽はずみにそんなことをしていい人間ではありません。 これは貴方のために」
それに答えず、シンデレラが壁に手をつき再び彼女に顔を寄せる。
そのまま深い口付けを交わすうちに、リーシャは諦めたように瞼を閉じた。
顔を離した彼にはどこか危うげな光が宿っていた。
「俺のためというなら心配は無用。 どうやら今日のランチにも出されたスッポンがなかなかの効用で」
「スッポン?」
リーシャがきょとんとした表情を返す。
「ああ、いや」
視線を逸らしたシンデレラが軽く咳払いをした。
「ほんのわずかな触れ合いでも、相性というものは即座に感じ取れる。 それは、目に見えるものだけではなく。 こんな陰鬱な月明かりの下でさえ。 貴女が誰であろうと、なんの関係もない」
逡巡するように視線を彷徨わせ、リーシャは自分のぼやけた視力でも分かる、すぐ目の前の美しい男を見つめた。
先ほどのキスを彼女は思い返していた。
目を閉じて唇を押し付けてくる彼は一見強引だったが、その直前に、触れるか触れないかの距離でシンデレラは彼女に熱っぽい視線で、それと分かる温度で、彼女の唇に尋ねた────それに自分は…自ら重ね合わせ応えた。
彼の熱が身体を包み込むようにまとわりつくのを感じた。