革靴を履いたシンデレラ
第7章 蒼い瞳をもつ理知的な女*
「さすがに大人には詳しく症状を聞くんだけどねえ」
それでないと下手をすると怪しまれる。
彼女はずる賢く立ち回る術を知っているし、それに何より、イザベラとて、本人と話してみなければ分からないことはたくさんある。
「ここを去るまであと二週間……ね。 あの母親の悪阻が軽くなればいいけど」
そうして彼女は自分のお腹に手をあてた。
ついここに長居をしてしまったが、自分の状態をダーマのような人間に知られれば、危険が及ぶだろう。
(お食事会に行きたかったけどね。 彼のことだから、きっとルナさんみたいに素敵なご家族なんだろうな)
あの日、彼を守るいくつもの姿がイザベラには見えた。
放蕩な生活をしていたようだが、彼を憎む悪い物など何もいなかった。
彼女の手の下にいるのは、シンデレラとの小さな種である。
「貴女は私が守るからね」
子供が出来ない、とシンデレラに伝えたのは、彼を遠ざけるための嘘だった。
たとえ異性とそんな行為をしても、妊娠などしないよう、普段から注意深く避妊をしていたイザベラだ。
『誰かを愛せば愛するほど、きっと私はその人の子供が欲しくなるって分かってるから』
あの時の自分の言葉どおり、シンデレラとの子供が欲しくなったのだろう。
自分を同等に扱おうとする男性に、イザベラは初めて会った。
気ままな少年の面影を残していた彼は、再会して魅力的な男になっていた。
他人のために真摯に悩む彼。
そして自らの弱さとは別の所で、イザベラに向き合い激しく求めた。
あの時の彼にはイザベラの境遇など、頭に無かったに違いない────思えば彼は初めからそうだった。
だが、翌朝になりイザベラがあらためて、おそるおそる彼の未来を観た時に、隣にいたのは自分ではなかったのだ。
およそ、理性的なイザベラらしくない選択である。
それでも彼女に後悔は無く、きっとこの子は自分を愛してくれるだろう、彼女にはおぼろげながら予感があった。
「まあ、それに」
母親は未婚で自分を産んだが、今は何となくその理由が分かる。
「そりゃあ、好きな男に家族と引き離してまで、私みたいに放浪生活なんて、させたくなかっただろうしね」
イザベラはクスリと笑い、ベリーの葉で入れたお茶をひと口飲んだ。
それは甘酸っぱく、微かにほろ苦い味がした。
To be continued…