
革靴を履いたシンデレラ
第2章 舞踏会の心得
若干、声を落としたシンデレラが彼女に向かって言う。
「渡されたグラスではなく、貴女は男性の腕に触れた直後、驚いた表情をしたでしょう。 そしてその後に貴女がしゃがんだ場所は破片が飛び散った跡で、欠片などは何も無い床でした」
彼女は微かな好意に満ちた笑みを彼に向けた。
「そう……正直に言って、あそこから連れ出していただいて、本当にホッとしました。この場所は音があまりにも多すぎて、少し混乱していましたので」
なんと言っていいか分からずにシンデレラは無言でいた。
「そうですね。 私はほとんど目が見えていません。 私の病気は進行性のものらしく、二十歳になる前には完全に光が見えなくなると言われています」
リーシャは悲観する様子もなく、指先で髪をなでつつ、柔らかな風に吹かれて心地よさそうに目を細めた。
「踊るのも好きでしたが、もう今年辺りで最後でしょう。 このような場所に来るのも」
「俺でよければ来年もお相手をいたしますが」
シンデレラが彼女の指先をとった。
軽くその手を引き、リーシャは彼が踊りに誘っているのだと察した。
「ここで、ですか? 少しばかり暗くありませんか」
「貴女には問題ないはずです。 不安ならこちらに身を預ければいい」
微かな楽団の音が室内に響き渡っていた。
そのささやかな音楽をこっそりと盗み、二人はなんの気兼ねもなく、密やかに身体を寄せて揺らした。
リーシャは彼のリードに身を委ねながら、クスクスと小さな笑みを浮かべていた。
そんな彼女を見下ろし、シンデレラは相手に見入っていた。
(……どうやら触れなば落ちんということもなさそうだ。 この俺を前に一歩も引く気配がない…ああ、そうか。 目が悪いし暗いから…)
「どうかしまして?」
リーシャの声に我に返る。
