革靴を履いたシンデレラ
第3章 階下の秘め事*
「……どうぞこちらへ」
リーシャは踵を返すと俯いたままシンデレラの先に立った。
彼女は何も言わなかった。
バルコニーからは下階へ降りる外階段があり、リーシャが先に連れ立って歩いていく。
リーシャのドレスのレースがふわふわと揺れる様を、シンデレラは後ろから眺めていた。
彼女が歩くたびに聞こえる衣擦れの音に耳を傾ける。
やがて暗いバルコニーの外廊下に立った。
客室らしき室内はしんと静まり返っており、リーシャは引き戸をカラカラと開け中へと入った。
リーシャはシンデレラの手を取らず自らの体を彼に寄せてきた。
互いの息遣いがさえ聴こえてくる、静けさだった。
同時にかすかな、いかにも上質そうな芳香が漂う。
香りの元を存分に嗅ぎたいものだ。 そんなことを考えているうちに彼女の声が耳元に届く。
「少しの…間でしたら」
その声が心なしか震えているように感じ、尋ねてみる。
「ここは貴女の屋敷ですか。 それで、いつもこんな遊びを?」
「はい、確かにここの娘ですが……けれど、こんな風に自分から男性を招いたことは、それ程は」
言いづらいのかリーシャが口ごもる。
と、シンデレラは唐突に、『暗がりに女性を連れ込まないこと!』という、姉の言いつけを思い出した。
(ム…俺はやはり連れ込まれた方なのだがな。 まあ、なんたって豪邸に住むご令嬢だ。 大義姉さんもどうにかして許してくれるだろう)
ここは確かフォードリアでは一番の伯爵家のはずだ。
シンデレラは心の中で頷き、純粋にこのシチュエーションを楽しむことにする。
ぎこちないリーシャの身体を抱き寄せ、言い含めるように低く声を落とした。
「リーシャ。 貴女は魅力的な女性だから、きっとたくさんの男が貴女を欲しいと崇めたことだろう。 俺は今からキミを女として扱うが、構わないかな?」
リーシャの身体は小さく、シンデレラの片腕に難なく収まっていた。
相手のことをファーストネームで呼べない行為など肩が凝る。 軽い気持ちで断りを入れたのだが
「……え、ええ? いいわ」
リーシャはそれに上擦った返事をした。