革靴を履いたシンデレラ
第5章 魔女のタマブクロモドキ
どこの国や町村でも決まりごとはあるものだ。
それはコミュニティの中でうまく生きていくという付き合いの基本である。
その中の一つ。
ここシンデレラの住まうイスタル村にもいくつかの不文律がある。
美男美女が揃うあの家・アシュフォードには近付いてはならない────とりわけ年頃の娘は……と。
「おはようございます! お姉ちゃんたち? ねね、ニーナがまたここに来なかった?」
そうはいっても仕方がない。
物事には何だって、例外というものがある。
キッチンの外窓からひょっこりと覗いた、ヘイゼルの大きく無邪気な目に、ルナはつい顔をほころばせた。
「それなら、ほら。 いつも通り、うちの猫使いの仕業じゃないかしら。 昨日熊狩りから帰ってきたばかりだから、部屋で疲れて寝てるわ」
「やっぱり………」
彼女の言葉にガックリと肩を落とす娘の名はクレアという。
階段をトントン上り、勝手知ったる部屋へノックもせず入り込む。
窓辺の壁につけたベッドで、女性よりも長いまつ毛を伏せ、軽い寝息を立てているこの男────
その肩や頭の上や背中には、見事に何匹もの猫が丸まって眠っていた。
(くうっ、相変わらず羨ましいわ)
昔から何もせずともこの人物には不思議と寄ってくるのである。
クレアはそんな彼を見て、妬ましさに歯噛みをした。