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革靴を履いたシンデレラ

第5章 魔女のタマブクロモドキ


「………その子と話をしたのか。 何か他に特徴は?」

「ああ、もちろん。 そうさなあ、女だてらに木綿のズボンを履いてる変わった子だった。 内容は……教えたら、アンタのその髪をもらえるかね? 悩みを聞く代わりに、あの娘の髪ももらったんだよ」

「お婆さんいけないわ。 お嫁に行く前の女の子の髪を奪うなんて」

シンデレラは何も言わず、袂からナイフを取り出し握った自分の髪を切り落とした。

「シンデレラ、あなたまで」

「どうせ邪魔だった。 これで話してくれるか」

落とした髪を差し出し、すると老婆が嬉しそうに細い目をさらに細めてそれを受け取る。

「ああ、ああ。 もちろんだとも……ヒヒ。 そこの人からは肉をいただいたからね。 ちゃあんとみてあげるよ」

「せっかくだけどお婆さん。 私は悩み事は無いのよ」

「悩みの無い人間なんてこの世にはいないのさ」

自信たっぷりに呟いた老婆はルナの手を取り、しげしげと見入った。

「無いねえ!?」

ルナはニコニコと微笑み、しかし次の瞬間、思わしげに頬に手をあてる。

「もう少し、毎日の食卓にお肉やお魚が乗ればいいわね。 でもそれも、捕ってくれば済むことだわ」

「け、結婚願望などはないのかい?」

「そうねえ……私よりも筋肉がある男性ならば、考えないこともないのだけれど」

「少なくとも半径百キロ以内にはいないねえ!?」

落胆するルナの横でシンデレラが深く頷いた。
彼女は彼が腕力でもって、唯一勝てない人間だ。

お陰で自分を非力と思い込み、思春期の頃には『俺は男としてポンコツなのだろうか』と、延々と悩まされた苦い経緯があった。

付け加えて容姿と気立てがよく、家事一般にも文句のつけようがない。 そんなルナに求婚する、勇気のある男性など近所にはいないのが現実である。

(たまに勘違い男がいてもアンナ姉さんが近寄らせないしな)

そして肝心の本人も色恋にはとんと興味がない様子。

「まあ、これは占いでもなんでもないが。 アンタみたいなのは王都の兵にでも志願することだね」

「それは全く同感だな」

シンデレラも同意を示す。

「それじゃあご飯がたくさん食べれないわ……」

ガッカリした様子のルナがシンデレラに場所を譲った。


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