革靴を履いたシンデレラ
第6章 もう一人の魔女*
「とりあえず、あの子の好きそうなものを何かお土産に買っていかない?」
肉を売った帰りがけにルナが提案した。
「俺もそう思っていた」
「何がいいかしら? シンデレラ、あなた得意でしょう」
「見た目15歳以下は範囲外だし、俺は女性に物を贈ったことはない」
「クズね」
「全く。 普段からいただくばかりで……あら? 貴女どなた?」
いつの間にか二人に並んで歩いていたのはルナが知らない女性であった。
「ひどいな。 久し振りでその言い草は」
シンデレラの表情が分かりやすく解けて和らぐ。
女性がほっそりした手首を前に差し出し、そこに掛かる華奢な鎖を揺らしてみせた。
「だってホラ、私に贈ってくれたブレスレットのことを忘れた? ダーマの所に行ったんでしょ。 助けに行ってあげようかなと思ったけど」
と、女性が言葉を切りルナの後ろへと回る。
「?」
興味深そうにルナの姿を眺め、だがその目は好意に満ちていた。
「凄い人ね。 眩しいぐらいの清浄な気。 彼女とはまるで真逆……初めまして、ルナさん」
「は、初めまして?」
いきなり名前を呼ばれルナはつられて返事をする。
「真逆といえばイザベラ。 君も」
「私は職業柄かな。 年頃の女の子のプレゼント選びなら、実は得意よ。 同行してもいい?」
「それは助かるわ………」
(何だろうこの人? どこかで私たちの話を聞いていたの?)
狐にでもつままれた気分だ。
思わず口を開けて彼女を見つめてしまい、シンデレラがそんなルナに説明を加えた。
「姉さん。 俺はあまり目に見えないものは信じないタチなんだが、イザベラは不思議な女性なんだ。 ダーマみたいな怪しいのじゃなく、本物の魔女だといわれてる」
「それは私のご先祖さまね。 今は薬店を営んでいて、合間に人の捜し物なんかをしてるよ」
にこっと微笑する、思いがけない可愛らしさにルナは同性ながらドキリとした。