
革靴を履いたシンデレラ
第7章 蒼い瞳をもつ理知的な女*
カランカラン、とドアについている、飾りの音を鳴らし、イザベラの店に一人の少年が訪ねてきた。
「あら、こんにちは」
やっと来てくれた、彼女は思った。
ここ二、三日、彼が店の外でウロウロしているのを知っていた。
そして彼の悩みも。
「こ、こんにちは。 あの……最近、お母さんの具合が悪いんだ」
カウンターの前に立った少年は肩を落として困った顔をしていた。
「そうなんだ。 食欲はあるの?」
イザベラが尋ねると少年は黙って首を横に振った。
「何も食べないんだ。 横になってても、気持ちが悪いって眠れない」
彼を守っている父母の姿が見えたが、他方でもう一つ、ぼんやりと光るまだ人の形を持たない存在。
(元気そうに飛び回ってる。 これならきっと無事に生まれそう)
イザベラは母親の姿が少しも弱っていないことを認めて、棚からいくつかの瓶を取り出し、それを注意深くスプーンで越し袋に入れた。
「ベリーの実とポリアって、きのこを乾燥させたものを煎じたお茶だよ。 三日飲んだらまた来てね。 少しでも気分が良くなったようだったら教えて欲しいな」
少年は不満そうだった。
「ここは薬屋さんじゃないの?」
「薬は元々、人が元気になる手伝いをするものなんだ。 その薬の元が、このお茶なんだけどね。 急に強い薬を飲むと、体がびっくりしちゃうの」
「それでも手伝いはたくさんがいいよ」
「会った人と急には友達にはなれないでしょう? 毎日少しずつお話しして、だんだん仲良くなっていくよね」
少年は薄い袋を見て考え込んでいたが
「僕は誰とでもすぐに仲良くなれるよ」
と言った。
聡い子だ、とイザベラは思う。
「それはいいね。 うーん、そしたら。 嫌いだった子を好きになったことはある?」
イザベラが聞いてしばらくして、少年は「あっ、あるよ!!」と嬉しそうな表情をした。
「分かった!! 三日後に、また来るね」
言うやいなや、走り去っていく少年に手を振る。
