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革靴を履いたシンデレラ

第7章 蒼い瞳をもつ理知的な女*


イザベラは昔から、自分に向かってくる悪意に敏感だった。
目に見えないものや耳に聞こえないもの。 果ては人の心や物の在り処まで、何となく分かってしまうイザベラには、彼女を怖がる者や距離を置く者の方が圧倒的に多かった。


思春期まではあからさまに他人から嫌われ。

『あの親にして娘も娘だ。 お前に「片腕のおじさん」と呼ばれた翌日。 熊に襲われて失くしたこの腕をどうしてくれる。 お前が妙な呪いをかけたんだろう! この化け物め』
『イザベラが赤黒い影が見えると言ってたあの家、本当に火事になったんですって。 なんだか気持ち悪いわ』

大人になって恋人が出来ても上手くいかず。

『言いづらいけど……ごめん。 君って考えてることが全然分からない。 逆に君は僕のことは何だって分かるのにね』

事件性のあることに関わり、犯人と思われ追われたことだって何度もある。
実際、彼女の母親は無実の罪で投獄されて死んだ。

そんなわけで、イザベラは住む場所を転々とせざるを得なかった。


その中でも自分と似た素養を持ち、憎しみの感情をドカドカ飛ばしてくるダーマは分かりやすいのだ。

幸か不幸か、おおっびらに悪事を働く彼女のお陰で、イザベラはダーマの陰に隠れることが出来た。
自分は『ダーマが捕まらない程度に』時々、彼女を止めれ良かった。

ダーマはそれを見抜いていた。
したがって、彼女がイザベラを恨むのも無理はないといえる。


イザベラはスーツケース一つで移動出来る物しか持たない。
いつ何があるか分からない。
日々そんな思いを抱え、生活していた。

(それでも悪いことばかりではないわ)

彼女はそう思っていた。
向けられる悪意が多いからこそ、人の優しさに触れた時の喜びも大きいと強く信じている。



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