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革靴を履いたシンデレラ

第1章 シンデレラの優雅な一家


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姉弟たちは一張羅の正装に身を包み、迎えの馬車を待っていた。
フォードリアまでは徒歩でも約一時間程だ。
だが会場となる豪邸に徒歩で行くわけにはいかない。

ピッタリとしたスーツを身を纏った弟は今宵は特に美しい。
家族といえど彼の隣に立つのが気が引けるほどだった。
この姿ならば会場にいる紳士淑女たちの前でも、決して引け目を取らないだろう。

(けれど何にせよ、舞踏会よねえ? 単に見目がいいだけでは心許ないわ)

当日の晩になり、先に家の戸口に立ったアンリは今さらのように心配そうな表情を浮かべた。

「そういえばシンデレラ、貴方って今も踊れた?」

「ン…不便ないと思うが。 昔、アンリ大義姉さんから教わったことだし。 ルナ小義姉さんは?」

シンデレラが屋内にいるルナを振り返る。
ついと彼女の手をとった彼が、その場で軽やかなステップを刻み始めた。

「私は踊ったことなどないけど、ついていけばいいのかしらね?」

「俺の後に…そう。 ここで右足を出して…二拍後にターン、そうそう」

元々運動神経の塊の妹である。

あっという間に部屋の隅から隅へ。
クルクル回って楽しそうにシンデレラと踊り始めた。

楽しそうに……と、動きが段々と高速になっていき、しまいに目で追うのも難しくなる。

カッカッカッ、一拍数える間に三度踵を鳴らし、シンデレラの手から離れその場で宙返る。
再び手を取りポーズを決めたらギュルルルンと回転しだし、弟について高速のターン。

(………何なんだろう、これ)

アンリはぼんやりとして二人(の残像)を遠くに見ていた。

「ははは。 さすがは小姉君だ」

「うふふ、踊るのって楽しいわね!!」


「────これはこれは……素晴らしい」

「………誰、あなた」

戸口には見知らぬ紳士がアンリと並んでその光景に見入っていた。

「通りがかりの行商だ。 気にしないでくれたまえ」

はしゃいで踊る姉弟の、これが数百年後。
普通の人間用に改良され、はるか欧米の南でタンゴと呼ばれ生まれ変わったとかなんだとか─────……



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