シャーク×ロストコロニー みにくいケイトはもう逃げない
第4章 男装の麗人クレリア
凄まじい視線
肌を突き刺すようだ
ザックはその何もかも見透かすような視線に絡みつかれ、焦り、何かにすがりつきたい衝動に駆られる
“誰か!俺を助けてくれ!”
身体も硬直し始め、いよいよ群衆のパワーに飲み込まれそうになった瞬間、
その視線がどこからやって来たのかがわかった
向こうの方の群衆の中心
皆に囲まれて、せり上がった場所に立ち尽くしている
それはまだ若い青年だ
成人していないくらいの年齢だが、その眼光は鋭い
いったいどんな経験をしてきたらあのような冷たい視線になるのだろうか
かなりの距離があるにも関わらず、ザックは彼と目があったような気がする
その瞬間、心臓が止まったかのように全身の血液が逆流したような感覚に陥る
“アイツの瞳から、逃げられない!
こ、呼吸が…ッ!?”
ザックは苦悶の表情を浮かべているが、その視線はやわらぐことなく彼を追い詰めていく
そのとき!
誰かがザックの腕を掴んできた
さらに彼をグイグイと強引に引きずっていく
一瞬、視線の罠から抜け出せたような気分になった
「い、痛いぞッ!?」
「うるさい、彼の眼を見るな!取り憑かれるぞ」
ザックを引く声の主はあろうことか女だった
女は群衆をものともせず、掻き分けていき雑踏を抜けて雑居ビルの陰にまで引っ張っていった
ビルのすぐ近くまで群衆が押し寄せているが、陰になっているためか圧迫感がない
一気に酸素が濃くなった
「た、助かった」
「キミ、今のはヤバかったぞ?デミトリッヒに絡みつかれていた」
「え?」
あらためてザックは振り返る
「見るな!また絡み付かれるぞ」
ザックは慌てて群衆のほうから背を向けた
正面に立つのは小柄な女性
黒い神職の格好をしているショートヘアーの女性だ
神父のような格好をしているがどうみても女性だ
「どこを見ている?失礼な奴だな」
そう言われてザックは慌てて視線を落とした
「ふん、女のくせに神父のような格好をしているのがそんなにおかしいか」
そう、司祭は男性が、女性はシスターの格好をするものだ
「アンタ、牧師さんかい?」
ザックはそのままガックリと膝をつき立っていられなくなってしまった…