獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第2章 夢の世界の入り口は
「お前が一番彼女を分かってるんだろ。 決めたことは覆さない性格だと、それはお前が教えてくれた。 そしてそうじゃなきゃ、おそらく琴乃は今この場にはいない。 環境が変わって正常な判断が出来ないだけだ。 どうせすぐに諦めて泣きを見るに決まってる」
どうでもいいけどカチンとくる言い草だ。
「……分かりました」
その後セイゲルさんがチラリと私の方に目を移した。
「おい、琴乃。 嬉しいか?」
「は? ええ、まあ?」
「では俺を褒めろ」
「ほ?」
「イヌ科は褒めて伸びる。 頭の良い者ほど叱られると拗ねるんだ」
この人何言ってるの?
首を回して周りを伺うと、メロルくんとシリカくんとシンまでが、尤もだという表情でうんうん頷いている。
彼らの生態は分かれども、どう見ても私より年上のセイゲルさんの発言には全く理解を示せない自分の感情について考えながら、私はコホンと咳払いをした。
「ええ、ありがとうございます、寛大なる処置に感謝いたします。 さすがセイゲル様、よっ太っ腹」
「少し違うし……俺は太ってない」
どこかご不満そうだ。
棒読みは不味かったかも知れない。
「だが琴乃、忘れるな。 無知はそれだけで罪だ」
「貴方に罪を問われたくありません」
プイと顔を横に向け、画面の向こうから籠った笑い声が耳を掠める。
「フッ、嫌われたものだな? ちなみに俺は勤務中だ。 もう切る」
意外にも呆気なく、プツッ、と通話と共にセイゲルさんの顔が消えた。
いいけど。
全然気にしないけど。
態度が大きい上にこの人、冷たい。
何なら私を攫ったのも。
伴侶とか体のいいことを言っといて、どうせ出世とか性欲解消とか、そんな不純な目的だったに違いない。
考えると妙にムカムカしてきたので、セイゲルさんのことは頭の隅っこに追いやった……ついでに数時間前の自分と共に。
「無知なら知ればいいんだもの。 自分でね。 シン、私はいつもそうしてきたよね? いつもみたいに私を助けてくれるよね」
何があっても彼だけは私の味方のはずだと信じたい。
だけどシンは私に何も答えず、床の上に目を落とすばかりだった。