獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第5章 推されなれないものだから
「メロルくんたちのご両親は心配しないの? その年で住み込み労働なんて」
壁に背中をつけて床に座ったシリカくんが答えてくれた。
「ん、僕たちは幼少のうちに親兄弟とは離されるから」
「はい?」
親子を引き離すだと?
どことなく険しくなったであろう私の表情を察したのか。 メロルくんが説明してくれる。
「琴乃様もご存知の通り、獣人の心身に影響を与えてるのは狼であるイヌ科なんですが。 僕たちは基本的に愛情深いけど、裏を返せば執着心が強いんですよ。 肉親に引っ張られすぎると、それに絡み取られて自分のことがおろそかになるんです。 だから僕たちは早くに独り立ちして、将来番を持てるために努力をするし、番を持てなかったり働けない人も平等に助け合って、平和を維持するんですね」
私は口を開けたままあんぐりとメロルくんを見つめていた。
な、何というか。
人生これ修行的な思想である。
なぜ獣人が対外的にとはいえ、人間にへりくだって平気なのかが何となく分かった。
きっと彼らの大きな身体から見える視界は人と違うんだろう。
私は自分が幸せな身の上ではないと思っていた。
でもここではごく当たり前のこと。
それをなぜだか嬉しく思った。
「出来た! ほら見てシリカくん、モッフモフのフワッフワだよ!」
汗を拭った私が充実感に浸る。
我ながら、ダブルコートの内側から輝きそうな出来栄えである。
仰向けで相変わらず無になっているメロルくんを眺め、感心したようにシリカくんが腕を組んだ。
「へえ、そんだけ梳いたらそうなるんだ。 僕いつも適当だから」
「シリカくん、それはダメだよ。 せっかくいい素材持ってるのに。 せめて尻尾だけでもやろうよ。 毛玉なんて私、許せないよ」
まるで狐のようにフカアッとしたシリカくんの毛並み。
固まりかけた毛玉を、縦に根元からほぐしていく楽しさが想像出来る。
逃げようとする彼の背中のサスペンダーを引っ張っている私たちに、今度はメロルくんが小さく笑う。
「シリカ諦めなよ。 ちょっとだけ変な気分だけどさ、なんだか家族のこと思い出して懐かしくなるよ」
っいい子────……!!
そんな彼の言葉にホロリとした。