獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第6章 甘えたいっ*
時は進み夕陽が沈んでしばらくした頃。
帰宅したセイゲルさんと私は、一緒にダイニングで夕食を取っていた。
こちらのテーブルは私には高過ぎて不便なのだが、わざわざ高さのある椅子を用意してくれていた。
『子供用』なのがいく分気になる所ではある。
「……仕事ねえ?」
ポツリと呟いた彼の前には、調理された牛肉と豚肉と鶏肉が並んでいる。
何とも肉々々しい。
獣人は人間と同じく雑食ではある。
それでも結局、大きな彼らには肉類が一番、タンパク質やエネルギー効率の面でいいのだとか。
体の組成を考えてもらったのか。 私の方は鶏肉が柔らかく煮込まれたシチューだ。
ゴロゴロの根菜とコクのあるチーズが入っていて美味しい。
ひと口ずつ味わってはスプーンを口に運ぶ。
「こんなご馳走を、働かないでいただくのは気が引けるんです。 私にも外で出来ることはありませんか? もちろん、外出の際は体を隠しますし、シンにもついてきてもらうとか」
昼間から考えていた。
女性が少ないといっても洋服や化粧品、果ては生理用品など。 性特有のものは必ず存在するに違いない。
働く需要がないとまではいかないだろうと、私は踏んでいたのだ。
「フーン……」
手元に目を落としたまま、さして気のなさそうな空返事。
大きな口に肉の塊を放り込む。 マナーもよく、もぐもぐ咀嚼を繰り返すセイゲルさんは、やっぱり素敵だ。
改めてチラチラと目がいってしまう。
「そんなことより体は平気か? 今日は一日心配してた」
若干決まりが悪そうに言われたので私は笑顔を作り、少し大きな声で答えた。
「ほとんどただの擦り傷ですし、大袈裟ですよ。 私、丈夫なんで」
昨晩は殆ど寝ていないと聞いた。 自分を思い遣ってくれる彼の気持ちは嬉しいとはいえ、もう気に病まないで欲しいと思う。
「加減出来なくて悪かったし、騙したのも反省してる。 だけどな琴乃、余り馬鹿なことを言ってまた俺を怒らせるな」
「え、何でですか。 何か……良くないことを言いました?」
彼の話し方や表情は穏やかだった。
ただ少しだけ余所余所しい。
「……ここで女が働くとはどういうことか、シンに訊いてみるといい。 その上で俺に相談してくれ」
「えっ……と、はい」
セイゲルさんはそのことについて会話を続ける気はないようだった。