獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第6章 甘えたいっ*
一通り食事を終えた後で、艶々の尻尾を揺らしたシリカくんがお茶を持ってきてくれた。
調理は主に彼の役目らしい。 食器を下げる際に、お料理がとても美味しかったことを伝えると、照れ臭そうに笑った。
お茶をいただきながら、セイゲルさんは自分の休暇や勤務パターンなどの説明をしてくれた。
それで、と、少し間を置いてセイゲルさんが口を開く。
「今すぐじゃなくていいが、もしも心が決まったら、向こうの住まいや戸籍のことを片付けたい。 お前は人間の世界を捨てることになる」
「そうなんでしょうね……」
頭では分かっていたけどそれはもう戻れない故郷、というよりも。 自分が『居なかったことにされる』みたいで、改めて告げられるとやっぱりショックだ。
セイゲルさんも口を閉ざしお互いに視線を落としたが、私の方が先に目を上げた。
「両親の位牌をこちらに運ぶのはいいですか」
そう訊くと、セイゲルさんはほっとしたように目を細めてもちろんだ、と約束してくれた。
そんな彼の表情を見て私も安心する。 これでいいのだと思える。
日中にメロルくんたちから聞いた話もした。
「セイゲルさんはご両親と離れて寂しく思うことはありました?」
「確かに二十年ほど会ってないな。 けど別に、今生の別れじゃねえし。 そもそもここの成人は十六歳だが、それを過ぎれば自由だ」
「え? じゃあ、なぜ会いに行かないんです?」
訊くと、セイゲルさんが声量を落としてボソボソと口ごもる。
「……一人前の仕事に就いて、家族を持つまで会わねえって決めたんだ」
っいい子────……!??
感激して両手で口元を覆う私を、セイゲルさんは不思議そうに見ていた。
これからのことを色々と話し込み、気付けばかなり夜が更けていた。
格好いい→怖い→酷い→冷たい→好き?→好き!!
と、目まぐるしく変化した自分の感情は、不思議なことに今、すんなりとあるべき所に収まっている。
「さてと。 そろそろいい時間だな。 明日から食後はリビングで過ごそう。 その方が寛げるだろ」
それは会話の間中、耳をそばだて、こちらの話を漏らすまいと聞いてくれたセイゲルさんの誠実さのお陰だ。
どことなく、シンに通じる所がある。
立ち上がった彼が私の方へと歩み寄り、両脇の下に手を入れてひょいと持ち上げる。
「ひゃっ……」