獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話
第7章 嫌いの影響
「え? あの、シン?」
傍に寄って触るもピクリとも動かない。
まるでぬいぐるみか何かに触れている感触に、私は彼の体を抱き上げた。
「………!???」
力なくうなだれる頭や手足。
何? 待って。
目は閉じられたまんまで、軽く口を開いた彼に声も出ない。
シンの様子に、もう何年も前に、棺に入れられていた両親を思い出した。
「…っ…!!」
ほんの少し前まで傍に立ってた。
私の名前を呼んでくれてた。
いつも空気みたいに在るべきはずの彼の気配がしない。
「……お、起きてシン」
ゆさゆさ揺さぶるもシンは起きてくれない。
「や、やだ。 ねえ!!? だって」
だって食欲が無かったわけじゃない。
毛並みが悪かったわけでもない。
彼の歳は分からないが拾ったばかりの頃動物病院に連れて行くと、まだ二歳ぐらいだといわれていた。
「シン、シン!! 待ってよ、ひどいよ!!」
まだまだ一緒に生きていく。
たくさん教えて貰うこともあるし、ここにシンがいなかったら私は何があっても家に帰ろうとしたと思う。
だって貴方は私の唯一の家族だもの。
「琴乃? どうした」
私の騒ぎに気付いたのかセイゲルさんが寝室にやってきた。
そして私の様子とシンの姿を見て一瞬ひるむ。
その後眉をひそめて寂しそうな表情をした。
「ああ……そうか」
そうか、そうかって何!??
彼を胸に抱いていた私ははっとした。
「セイゲルさん病院!!! 動物病院はここにもあるでしょう!!?」
もしかしてこれは何か一時的なショックなのかもしれない、そう思いセイゲルさんの元に走った。
「いや、無駄だ」
「無駄じゃない! アレルギーとかで仮死状態になることもあるって本で読んだことがあるもの!!」
「琴乃」
取り乱す私の両肩を包んだセイゲルさんが腰をかがめる。
いつになく真剣な顔で。
獣人は犬の生態に詳しい。
まさかやっぱり……?
「よく聞くんだ。 シンのこれは」
つつかれれば涙が出そうだったが唇を噛み締めてぐっと堪えた。
「………」
「脱皮だ」
「………」
私は初めてセイゲルさんに対して殺意に似た感情が湧いた。